フォト・エッセイ(10) 雨の休日


 木曜日はわたしにとって特別な日だ。なぜなら、週に1度この日だけ教会から離れて自由に過ごすことができるからだ。
 だがどういうわけか、わたしが神戸に来て以来、たぶん70%くらいの確率で木曜日には雨が降る。休みの日には六甲山かどこかの自然の中をカメラを提げて歩きまわりたいのだが、なかなかうまくいかない。昨日もそうだった。
 朝のうちは確かに青空が出ていたし、天気予報のお姉さんも夕方までは雨が降らないとにこやかに言っていた。だからわたしは昨日、朝のミサが終わった後そそくさと食事をし、六甲ケーブル駅行きのバスに嬉々として乗りこんだのだった。ケーブルカーに乗っているあいだも日が差していたから、これなら高山植物園で花の写真を撮って、そのあと杣谷経由で徳川道に入り、さらに森林植物園くらいまで歩けるかなと胸算用していた。高山植物園まではその予定通りにことが進んだ。念願のエーデルワイスを見ることができたし、コマクサなど珍しい高山植物の写真を撮ることもできた。そのときまですべては順調で、1週間の疲れを癒してくれる楽しい1日が始まるかに見えていた。ところが、高山植物園の門を出て杣谷へ向かおうとしたその矢先、信じがたいことに雨が降り始めたのだ。
 仕方なくケーブルカー駅の近くにある記念碑台まで戻って、そこで雨宿りしていた。30分くらい昼寝していれば、きっと雨が小ぶりになるだろうと思ったのだ。ところが、30分くらいたって目を開けた時には、さらに信じられない光景がわたしを待ち構えていた。なんと30分のあいだに霧が出て、あたり一面が真っ白になっていたのだ。風もだんだん強くなり、わたしが避難していた屋根の内側にまで雨が吹き込み始めた。もうどうしようもないと観念したわたしは、ケーブルカー駅まで一気に走って、そのまますごすごと山から下りてきた。
 そのあとは、午後から夜にかけて家で小説を読んだり昼寝したりしながら過ごした。それはそれで楽しいひと時だった。読書はわたしのもう一つの趣味だ。ほんとうにおもしろい本を読んでいると時間を忘れてしまう。昨日もそういう本に巡り合うことができた。昔から一目見たいと思っていたエーデルワイスも見ることができたし、これはこれで幸せな1日だったと神に感謝しながら木曜日を終えることができた。晴れの日には晴れの日なりの恵みがあり、雨の日には雨の日なりの恵みがあるということだろう。

※写真の解説…上の写真・エーデルワイス。下の写真・コマクサ。