フォト・エッセイ(12) 影の国


 今日、午後だけだったが久しぶりに六甲山を歩くことができた。先週は、これから歩くというところで雨が降り始めてしまってがっかりしたのだが、今日は最初から最後まで雲ひとつない晴天だった。
 山道を歩きながら、ナルニア国物語の作者、C.S.ルイスが、この世界を「影の世界」と書いていたことを思い出した。この宇宙にはわたしたちが住んでいる世界とは別の次元の世界があって、わたしたちが住んでいる世界はその世界の影だというのである。その世界では、すべてのものがそれらの本来持つべき色を持って生き生きと輝き、美しい秩序の中に置かれているという。その世界は、あたかもプラトンの言うイデア界(理想の世界)のようなもので、その世界こそがナルニア国なのだとC.S.ルイスは書いている。わたしたちはみな、死んだあとその世界に移される。だから誰かが死んだからといって、何も心配することはないし、何も悲しむことはないというのがC.S.ルイスのメッセージだ。その世界は、どうやらわたしたちキリスト教徒の言う「神の国」に似ているように思える。
 初夏の木々の濃い緑に彩られた山道を歩いていて、これらの色濃い緑も「神の国」の影にすぎないのかなぁと思った。たしかに初夏の強すぎる日差しの中で、多くの木々の葉は輝きすぎて逆に色を失っていたし、干からびて色あせている花もあった。だが、ときにはっとして立ち止まるほど美しい景色に出会うこともあった。あまりの美しさに、その背後にある神秘を感じざるをえないような景色がときに存在する。冒頭の写真もそのような景色の一つだ。どうやら神様は、わたしたちにときどき「神の国」の木々や花々が持っている本来の彩りを垣間見せてくれることがあるようだ。そのような瞬間をカメラに収め、みなさんに紹介することができればと思う。
 実はこの数日、心がとても重かった。わたしのよく知っている信者さんが、一昨日急に帰天されたからだ。昨日はその方の通夜で、今日の午前中は葬儀だった。その方の人生には多くの苦しみがあり、心を痛めることも多かったと聞いている。だが今ごろはきっとその方も、キリストの光の中ですべてのものがそれら本来の色で輝き、互いが互いを傷つけあうことのない美しい秩序の中にある「神の国」で心の奥底まで癒されているだろう。そう思うと、少し心が軽くなる。



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※写真の解説…1枚目の写真は、六甲山ケーブルの駅の近くで撮影したもの。よく見る花だが名前を知らない。誰か知りませんか? 2枚目はシェール道に咲いていたうつぎの花。3枚目は穂高湖畔の木。4枚目は摩耶山頂・掬星台から見た神戸。上の方の白い点は、レンズの汚れではなくお月さま。