フォト・エッセイ(68) 山口・カルメル会での初ミサ


 山口のカルメル会から初ミサを依頼されたので、福岡に行く途中で山口に立ち寄った。新幹線の新山口駅を降りてディーゼル車両3台で編成された山口線の電車に乗り込むと、もうそれだけでずいぶん遠くに来たなぁという感じがしたが、カルメル会山口駅からさらに車で20分ほど行った山の中にあるということだった。
 何もない田舎なんだろうなと思いながら車に乗っていたのだが、そろそろ目的地に着くというあたりですごいものが目に飛び込んできた。巨大なパラボラアンテナだ。最初3つくらいのアンテナが遠くから見えて驚いたのだが、近づくとなんと10個以上のアンテナが設置されている。運転手さんの説明によれば、仁保は日本中で一番よく電波が届く場所だそうで、それに目をつけたKDDI人工衛星からの電波の受信基地をこの地に造ったのだそうだ。これだけの規模の受信基地は、日本に2ヶ所しかないという。
 車は、どんどん巨大なアンテナ群に向かって進んでいった。アンテナ群のすぐ隣に、十字架のついた小さな塔が見えてきた。それが、カルメル会修道院だった。こんな場所ならば、きっと天国からの通信もよく届くだろう。シスターたちが何も知らずにこの場所を選んだのだとすれば、恐るべき勘だ。車が敷地に入ると、受付係のシスターがすぐに出てきて迎えてくれた。時刻はもう5時近くになっており、夕日が真っ白な修道院の壁を茜色に染め始めていた。
 透明な微笑みを絶やさない受付係のシスターに案内されて修道院の中を歩いているうちに、だんだん心が軽くなっていくのを感じた。日程の説明を受けて、部屋で一休みする頃には体も心も完全に脱力状態だった。ふだんの緊張感から心を解き放ってくれるような、暖かで心地よい力が修道院に溢れているようだ。しばらく休んでからベネディクションを司式させてもらい、その後で晩御飯を御馳走になった。夜はシスターたちとの面会の時間があり、いろいろなことを話した。楽しいひと時だった。まるで昔からよく知っている場所に戻ってきたかのような安らぎに包まれた夜だった。
 翌朝、7時過ぎから初ミサを立てさせてもらった。日々の祈りと労働によって清め尽くされているシスターたちを前にして、いったい何を説教したらいいのかと途方にくれていたのだが、不思議と言葉が次々に出てきた。それも、ミサが始まる前には思ってもいなかったような言葉だ。聖霊が、語るべき言葉をわたしの口に与えてくれたのかもしれない。この修道院は、それだけしっかりと聖霊に守られているということだろう。聖霊に導かれて話すことは、わたし自身にとっても心地よい恵みの体験だった。
 わずか1日足らずの滞在だったが、本当に豊かな恵みを体験させてもらった。またいつか、ゆっくりと行ければいいのだが。







※写真の解説…1枚目、「カルメル会・山口・教会の母マリア修道院」の外観。2枚目、修道院の庭にある御像。3枚目、ザビエル記念聖堂。4枚目、ザビエル記念聖堂前のザビエル像。