フォト・エッセイ(91) 箱根①


 3日間ほど休みをもらって、埼玉の実家に帰ってきた。昨年末に東京に行ったときは実家に寄ることができなかったので、久しぶりの里帰りだった。
 わたしの実家は埼玉県の上尾市にある。ベッドタウンとして急速に発展している街なので、いつ帰っても何か新しい変化を見つけることができる。今回は、上尾駅が大規模な工事をしていた。駅舎を完全に建て変えるそうだ。個人的には、実家の前にあった家電量販店が閉店してしまったのも大きな変化だ。実家が土地と建物を貸していた店で、その収益に母はだいぶ助けられていた。新しい借り手が見つかるまで、しばらくは大変だろう。
 実家で1泊したあと、2日目は母と一緒に箱根に行ってきた。来週、助祭に叙階される神学生も一緒に行ってくれた。彼は韓国から来た神学生で、東京にいたころ3年間一緒に生活したことがある。写真が趣味でビールが大好きという大きな共通点があったために、わたしたちは大の仲良しで、いつも一緒に飲みに行ったり写真の話をしたりしていた。
 助祭叙階式が終わった後、彼は韓国に戻って叙階され、向こうで働くことになっている。本当は彼の助祭叙階式に行きたかったのだが、その日は教会学校の卒業式でどうしても東京に出ることができない。だから、今回こうして箱根に一緒に行こうということになった。
 箱根に行った日は、朝から雲ひとつない青空が広がる快晴だった。写真を撮るには絶好のコンディションだ。ここのところ不安定な天気が続いているなかで、こんなにいい天気に恵まれたというのは摂理的なことに思える。母への親孝行と親友との旅行のために、神様が準備してくれたのだろう。
 箱根湯本で登山電車に乗り換えゆっくりと箱根の山を登っていくあいだ、富士山がどう見えるかを想像して気がはやった。おそらくあの日箱根に行った人たちはみんな同じ気持ちだっただろう。早雲山でロープウェイに乗り換え、大涌谷の手前の尾根を越えたところで青空を背景にして真っ白に輝く富士山が見えたとき、車内のあちこちから歓声が上がった。箱根には何回も行ったことがあるが、これほどきれいに富士山が見えたのは初めてだった。
 大涌谷で降りて、富士山が一番よく見えるところに座ってお弁当を食べた。ぽかぽかと春の日差しが降りそそぐ広場で、絵のように美しい富士山を見ながら母や親友と一緒に食べたお弁当は本当においしかった。これからの年月の中で他のすべてのことは忘れたとしても、あのお弁当のことを忘れることは決してないだろう。







※写真の解説…1、2、4枚目、大涌谷から見た富士山。3枚目、大涌谷噴泉地の全景。