フォト・エッセイ(98) 里山エコツアー④ 早春の琵琶湖


 2時間ほどかけてゆっくり針江地区の家々を案内してもらった後、今度は自転車で琵琶湖に面した三五郎さんの船着き場と、最近ヨシ焼きが行われたばかりのヨシ原に連れて行ってもらった。
 三五郎さんの船着き場は新興住宅街の裏手にあるのだが、すぐ隣で進んでいる開発をよそにそこだけ時間が止まったような空間だった。この景色を見たとき、わたしは子どものころに慣れ親しんだ故郷の川のことを思い出した。以前にも書いたが小学校高学年から中学1年くらいまで、わたしは完全に「釣りキチ」少年だった。土曜日の午後や日曜日は、必ず近くの川に行って魚釣りをしていた。実家の近くを流れる綾瀬川と元荒川がわたしの主な釣り場だった。真冬の寒さの中でも、真夏の暑さの中でも、毎週毎週それらの川に通ってコイやフナを追いかけていた。三五郎さんほどではないが、当時のわたしもどの季節にはどの場所でどんな魚が釣れるかある程度把握していて、その季節ごとの釣りを楽しんでいた。
 冬場は綾瀬川下流、別の小川が流れ込んでくる辺りに小鮒やタナゴ、クチボソなどがたくさん集まってくるので、「極小」と呼ばれる小さな針に赤虫を一匹だけつけてそれらの小魚を釣っていた。ときどき大きなフナが釣れることもあり、とても楽しい釣りだった。春には上流部のアシの茂みにフナたちが産卵のために集まってくる。「乗っこみ」と呼ばれるそのときを狙って釣り糸を垂らすと、中型のマブナやヘラブナがおもしろいほど釣れた。
 小川といっていいくらいの細さの綾瀬川に比べて、元荒川は川幅が20mくらいある大きな川だ。釣れる魚も大きなものが多く、ダイナミックな釣りを楽しむことができた。「乗っこみ」の時期には30㎝近くある大型のフナがたくさん釣れた。春から夏にかけて、元荒川ではオイカワやハヤを釣ることもできた。小型だが細身できれいな魚たちだ。秋には、冬眠前に「荒食い」と呼ばれる摂食行動をしているコイを狙って、吸い込み仕掛けをリール付きの竿で川に投げ込んでいた。めったに釣れることはなかったが、大型のコイがかかったときの感動は今でも忘れられない。
 琵琶湖の景色を見たとき何かとても懐かしい感じがして胸が熱くなったのは、それらの思い出がわたしの心の深いところに刻みつけらているからかもしれない。







※写真の解説…新旭町の水辺から見た琵琶湖の風景。ヨシの間にタチヤナギが点在している。