フォト・エッセイ(126) 生田川上流②


 生田川の水は、この季節でも肌を刺すほど冷たい。もっとも、雪解け水ではないので、我慢すれば10分くらいは足を浸していられる。山歩きでほてった足を冷やすにはちょうどいいくらいの温度とも言える。六甲山はそれほど高い山でもないのに、なぜこれほど水が冷えるのか不思議だ。
 水辺で休んでいると、その水の中に驚くほどたくさんの命が育まれていることに気づく。まず驚くのは魚の多さだ。関東ではウグイとかハヤと呼ばれている、黄色がかった体の中央に黒い線が走った細身の魚が、渓流の淵という淵に住み着いているのだ。少しでも深くなって、水がよどんでいるところには必ず数匹のウグイが住んでいる。大きな淵になると、大小100匹以上のウグイが乱れ泳いでいる。
 ウツギの白い花びらが風に吹かれて落ちてくるたびに、それらの魚がえさと間違えて一斉に花びらに群がっていった。その様子を見ながら、昔釣りキチ少年だったわたしは、ここで釣りをしたら入れ食いだろうなと思わざるをえなかった。「カジカ保護区」という看板も出ていたから、川底にはきっとカジカも潜んでいるのだろう。
 川のところどころに土砂災害を防ぐための堰堤があるのだが、大きな堰堤の上部にはちょっとした高層湿原ができあがっていた。湿原に特有の「谷地坊主」と呼ばれるイネ科の植物の群落もあるし、水辺には無数のトンボや虫たちが舞い飛んでいる。人が入れるような道もないし、まさに植物や虫たちの楽園のようなところだ。







※写真の解説…1枚目、徳川道にて。2枚目、堰堤によって作り出された湿原。「谷内坊主」がいくつもできている。3枚目、イトトンボ。4枚目、生田川。