カルカッタ報告(53)8月27日ハウラーへ


 しばらく川辺に佇んだあと、わたしたちは沐浴場に隣接するフェリー乗り場へ向かった。いったん沐浴場を出て左の方に下っていくと、ハウラー方面に向かうフェリーの乗り場に出られる。ハウラーは、フーグリー川を挟んでカルカッタの対岸に広がっている商業地域だ。川沿いには、カルカッタのセントラル・ステーション、ハウラー駅がそびえたっている。
 このフェリー乗り場は観光案内などには出ていない。観光フェリーではなく、ハウラーとカルカッタを行き来する現地の人々のために運行されているフェリーなのだ。だが、現地の人々にとっては日常性の一部にすぎないこのフェリーも、わたしたち外人にとってはフーグリー川見物にもってこいの観光船になる。わたしも15年前、カルカッタに来たばかりのころボランティア仲間から教えてもらって初めて知った。エスプラネードとハウラー駅の間を、約15分で結んでいる。料金は片道20円ほどだ。
 たくさんの通勤通学客と若干の日本人観光客を乗せたフェリーは、激しいエンジン音とともに水面に滑り出していった。カルカッタ側の岸辺に、たくさんの商業ビルが立ち並んでいるのが見える。コロニアル・スタイルの古くて立派な建物も、ビルの間にいくつか見える。イギリス統治時代の遺産が、今でも現役で使われているのだ。
 しばらくすると、船の進行方向に巨大な鉄の橋が見えてきた。カルカッタのシンボル、ハウラー橋だ。現代風のワイヤーを使ったつり橋ではなく、約450mの橋梁が鉄骨だけで組み上げられている。1943年に完成したこの橋を、現在、1日約8万台の車両と約100万人の歩行者が行き来しているという。ハウラー駅を見学した後わたしたちも歩いて渡ってみようと思っているが、カルカッタで最もカルカッタらしい場所の1つと言える。
 橋の左手に、赤い外壁の横長の建物が見えている。ハウラー駅だ。ところどころに突き出た三角屋根の塔が特徴的な現在のこの駅舎は、1905年に建てられたものだそうだ。シアルダー駅と並んでカルカッタの玄関口となっている駅で、毎日数十万人の人々がこの駅からカルカッタの街に入ってくる。
 メンバーたちは、次々と流れていく川岸の風景を見つめながら、それぞれ物思いにふけっている様子だった。自分が今、インドにいるのだということを改めて実感しているのかもしれない。わたしも船端の手すりによりかかり、水面を吹きわたる川風を全身に受けながら大きく深呼吸してみた。14年ぶりのインドを、全身で受け止められたような気がした。流れ込んでくる汚れたものも清らかなものも、沐浴する人々の悲しみも喜びも、すべてを飲み込んで流れていくこの川はまさにインドそのものと言っていいだろう。







※写真の解説…1枚目、エスプラネード側のフェリー乗り場。2枚目、岸辺の風景に見入るメンバーたち。3枚目、ハウラー橋とハウラー駅。4枚目、ハウラー駅側のフェリー乗り場。