人力車の高い荷台から見ると、街の様子が普段よりも隅々までよく見えるような気がする。行き交う人々の表情、道端で売られている品物、建物の作りなど歩いていると見過ごすようなところまでゆっくり観察することができる。その意味では、カルカッタの街をよく知りたい人にとって人力車は最適の乗り物と言えるだろう。
道端の風景を夢中で眺めているうちに、人力車はA.J.C.ボース・ロードに到着した。しばらく大通りを走ってもらい、マザー・ハウスの辺りで下してもらった。一生懸命走ってくれた彼に、最初の約束より少し多めに代金を渡し、代わりに写真を撮らせてもらった。「とてもハンサムに見えるよ」とわたしが言うと、彼はうれしそうにほほ笑んだ。実際、彼の精悍に引きしまった体と苦労の刻みこまれた顔はとても美しかった。
人力車を下りると、マザー・ハウス少し先に大きな人の群れが見えた。どうやら、イスラム教徒たちが路上で礼拝をしているらしかった。彼らがイスラム教徒であることは、かぶっている帽子から明らかだ。どうやら、マザー・ハウスの4、5軒先にあるモスクで行われている祭礼に入りきれない人々が、路上で礼拝をしているようだった。人の群れは、マザー・ハウスの入口近くまで続いていた。
マザーの葬儀のとき、彼らイスラム教徒もマザーの死を悼んで葬列を見守っていた。彼らはこのモスクの屋根に上がって、そこからマザーの棺に花びらを投げかけたそうだ。マザーは、ヒンドゥー教徒だけでなく、イスラム教徒たちからも愛されていたのだ。
わたしは群衆を避けて道の反対側に渡り、ホテルまで帰ることにした。午後は、旅行会社に手配しておいたカルカッタの半日ツアーがある。少し休んでおかなければ。
※写真の解説…1枚目、人力車引きの男性。2枚目、路上で礼拝するイスラム教徒たち。