カルカッタ報告(80)8月29日Fr.ジュリアス③


 興味深かったのは、マザーの列聖調査の話だ。今、列聖のために必要な奇跡がなかなか見つからなくて困っているという。
 カトリック教会が定めた列聖までの手続きはとても厳格で、その人が天国にいることを確認するため、その人の取り次ぎによる奇跡が起こることを要求している。列聖の1段階前の列福の手続きでも奇跡が1つ要求されるから、列聖されるためには死後少なくとも2つその人の取り次ぎによる奇跡が起こらなければならない。
 列福の時の奇跡は意外と簡単に見つかった。それでマザーは、死後わずか6年という異例の速さで列福されることができたのだ。そのときの奇跡は、次のようなものだった。
 あるときM.C.のシスターたちが、マザーの墓の上に乗せて祝福したメダイを自分たちの施設の患者さんの癌で膨らんだお腹の上に置いて祈った。翌日シスターたちが見ると、その患者さんのお腹はすっかり平らになっていた。後で医師に見せたところ、中にあった癌細胞まで消えていることが分かった。これをバチカンに届けたところ、バチカンの医学委員会もこの事実をマザーの取り次ぎによる奇跡として認定した。
 この奇跡がマザーの取り次ぎによるものであることは、証明しやすいだろう。因果関係がとてもはっきりしているからだ。ただ、多くの場合ことはそう簡単にいかない。普通、重病の患者さんには家族や友人が複数おり、彼らが複数の聖人に取り次ぎの祈りをするからだ。病人の妻はパードレ・ビオに祈っていて、息子はマザー・テレサに祈っていたという場合、仮に奇跡が起こってもマザー・テレサの取り次ぎによる奇跡とは認定してもらえない。その辺りが難しいところだとFr.ジュリアスは嘆いていた。
 最後にわたしは、M.C.はマザーが帰天したあと変わったかとFr.ジュリアスに尋ねてみた。彼の答えは、「ある意味では変わったが、ある意味では変わっていない。全体としては変わっていないという方が正しいと思う」という慎重なものだった。総長が変わって運営の方針などの細部は変わったが、マザーの精神は相変わらず健在だということだろう。
 話は尽きなかったが、マザー・ハウスでのミサの時間が近付いてきたので、わたしは再会を誓ってM.C.ファーザーズの家を後にした。時刻はもう8時半になっていた。 
※写真の解説…カルカッタの街並み。