カルカッタ報告(102)8月30日ボランティアへの講話


 時間が近付いてきたので、わたしはボランティア・ルームに向かった。中に入ると、ちょうどSr.クリスティーがボランティア・ルームを埋め尽くした日本人ボランティアたちに向かって話をし始めたところだった。椅子が足りず、床に座って話をきいている人もいた。40代ぐらいの人たちも数人混じっていたが、ほとんどが大学生ぐらいの若者たちだった。
 Sr.クリスティーは、マザーのエピソードをいくつか紹介した。マザーがあるときスラム街で何日も食事をしていない家族を見つけた。後で、マザーがその家族にお米を届けると、それを受け取ったお母さんはそのお米を半分に分けて急いで外に出て行った。戻ってきたお母さんにマザーが「どこに行っていたのですか」と尋ねると、そのお母さんは「お隣の家族も何日も食事をしていないのです」と答えたという。それを聞いたマザーは、このお母さんが自分たちのことだけでなく隣の家族のことまで気を配っていたことに深く感動したという。
 マザー・ハウスで砂糖が不足していたとき、1人の少年がマザーの元に1瓶の砂糖を届けた。マザーのところで砂糖が足りないと聞いて、1週間甘いものを我慢してためものだった。マザーは、これこそ本当の愛だと感じたという。自分の大切な何かを、痛みを感じつつ人に差し出すのが本当の愛だからだ。確かに、マザーはよく「痛みを感じるまで愛しなさい」と言っていた。
 どれもおなじみの話しではあったが、改めてマザーの傍でずっと働いていたシスターから聞くと新鮮に感じられた。マザーは「大きなことをする必要はありません。小さなことに大きな愛を込めなさい」とも言っていた。口先だけでない愛を、小さなことから実践していきたいものだ。
 シスターの話が終わった後、わたしが30分ほどマザーと出会った体験について話をした。話のあと、1人の青年がわたしの方に来て「神父さん、六甲教会の方なんですか」と尋ねた。わたしが「ええ、そうですよ」と答えるとその青年は思いきったように「実はぼく、六甲学院の卒業生なんです」と言った。
 六甲学院というのはイエズス会の経営する中高一貫制の男子校で、六甲教会のすぐ近くにある。彼はこの春、六甲学院を卒業して東京の大学に進学したばかりだという。六甲学院は3年に1度、希望する生徒を連れてインド旅行をしているが、その抽選に外れてしまって在学中インドに来られなかった。卒業したら絶対にインドに行き、マザー・テレサの家を訪ねようと思い続けて、ようやくその夢がかなったのだという。どうやら、六甲学院カトリック教育は着実に実を結んでいるらしい。
※写真の解説…ボランティアへの講話の様子。撮影、柾木久和さん。