マザー・テレサの言葉を読む(5)大切な人


「あなたは望まれて生まれてきた
 とても大切な人です。」 

 マザーのもとには毎日、家族の不和、病気、経済問題などあらゆる苦しみを抱えた人がやってきて助けを求めました。涙を流しながら「わたしはもう駄目です。どうしていいかわからない」と訴えるその人たちを温かなほほ笑みで包み込みながら、マザーはいつも優しくこう語りかけていました。
「あなたは望まれて生まれてきた、とても大切な人です。」
 それは単なる言葉ではなく、マザーの全身が発しているメッセージでした。マザーと出会うとき、マザーの表情、手のぬくもり、優しい仕草、すべてがわたしたちにこのメッセージを語りかけていました。マザーと出会った人はみなこのメッセージに触れ、涙をぬぐって再び立ち上がる力を与えられたものです。
 「あなたはわたしにとって大切な人です」という言葉、それはわたしたちの心の奥底にある飢えや渇きをたちどころに癒す魔法の言葉だと思います。もし世界中にたった一人でも心からこう言ってくれる人がいれば、わたしたちはどんなことがあっても生きていけるのではないでしょうか。
 日本では今、毎年3万数千人の人たちが人生に絶望し、自ら命を絶っていきます。社会の中に居場所を見つけられず引きこもったり、心を病んだりする人たちの数はもっと多いでしょう。その人たちに、せめて誰か一人でもこの言葉をかけてくれる人がいたらと思わざるをえません。そのような人たちに深く共感し、心の底から「あなたはわたしにとって大切な人です」と声をかけられる人、そのような人が今の日本には本当に必要だと思います。
 マザーとの出会いを体験し、マザーの愛で満たされるなら、きっとわたしたちも苦しんでいる人々にマザーのように語りかけることができるでしょう。