マニラ日記(47)ナトニンでの日々Ⅲ〜農村体験


農村体験
 死者のためにお祈りを捧げてから表に出て、しばらく村人たちが忙しく働く様子を見学していた。脱穀のお手伝いもしたが、わたしがやると米が飛び散ってしまってどうもうまくいかなかった。あきらめて写真を撮っていると、男性たちが生きた豚を棒に逆さ吊りにして庭先まで運び込んできた。死者の魂を弔うために、生きた豚を一匹殺すのが通夜での習慣なのだという。泣き叫ぶ習慣といい、豚の捧げものといい、昔からの習慣がカトリックの通夜にしっかり組み込まれているのがよく分かった。
 そのうち昼食の時間になったので、わたしも御馳走になった。メニューは味付けされていない豚肉の煮物とお米、パンシットと呼ばれるビーフンだった。この3点セットは、この地方の食事の基本らしく、どこに行ってもどんな集まりでも同じものが出てくる。これに豚の血の煮凝りとフルーツサラダを合わせると、イゴロット族のフルコースになるだろう。バナナの茎のお皿に盛られたそれらの料理を、村人たちはみな手づかみで食べていた。スプーンやフォークを使う習慣はないらしい。
 村人たちと一緒に食事をした後、信者さんの案内で葬家を離れて村の中を見て回ることにした。ある家でコーヒーに招待されたが、あぜ道で栽培したコーヒーを、自分の家で挽いた自家製のコーヒーとのことだった。現地の言葉では、このコーヒーのことをバラコと呼ぶそうだ。囲炉裏端に腰かけて、ココナッツの殻を2つに割って作ったコーヒーカップでバラコをごちそうになった。日本のコーヒーよりは少し味が薄いようだったが、とてもおいしかった。
 今日は、お通夜のお蔭で思いがけず村人たちの日常生活を垣間見ることができ、とても恵み豊かな1日だった。体力も戻ったことだし、明日からはもっと積極的に村人たちの生活の中に混じっていきたいと思う。
※写真の解説…コーヒー豆をひくのを手伝っているところ。