バイブル・エッセイ(208)まっすぐイエスに向かって


まっすぐイエスに向かって
★この話は、先日、教会学校のミサで子どもたちに話した内容に基づいています。
 それからすぐ、イエスは弟子たちを強いて舟に乗せ、向こう岸へ先に行かせ、その間に群衆を解散させられた。群衆を解散させてから、祈るためにひとり山にお登りになった。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。ところが、舟は既に陸から何スタディオンか離れており、逆風のために波に悩まされていた。夜が明けるころ、イエスは湖の上を歩いて弟子たちのところに行かれた。弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、「幽霊だ」と言っておびえ、恐怖のあまり叫び声をあげた。イエスはすぐ彼らに話しかけられた。「安心しなさい。わたしだ。恐れることはない。」すると、ペトロが答えた。「主よ、あなたでしたら、わたしに命令して、水の上を歩いてそちらに行かせてください。」イエスが「来なさい」と言われたので、ペトロは舟から降りて水の上を歩き、イエスの方へ進んだ。しかし、強い風に気がついて怖くなり、沈みかけたので、「主よ、助けてください」と叫んだ。イエスはすぐに手を伸ばして捕まえ、「信仰の薄い者よ、なぜ疑ったのか」と言われた。そして、二人が舟に乗り込むと、風は静まった。舟の中にいた人たちは、「本当に、あなたは神の子です」と言ってイエスを拝んだ。(マタイ14:22-33)
 イエスに呼ばれ、喜び勇んで水の上を歩き始めたペトロですが、強い風を恐れ、自分がとんでもない所にいるのに気付いたとたん沈み始めてしまいます。この時のペトロの気持ち、よく分かるような気がします。わたしも、子どもの頃に同じような思いをしたことがあるからです。
 それは小学校の校庭の一角に、大きな遊具ができたときのことでした。かまぼこ型の遊具で、一番高いところは地上から5-6mはあったと思います。先生が先に登って手本を示し、上からわたしたちに「みんなも登ってきなさい」と呼びかけたので、わたしたちは喜び勇んで遊具に登り始めました。2m、3mとどんどん登って行ったのですが、かまぼこ型なので登るにつれて下がよく見えてきます。頂上近くなって下が丸見えになり、自分がとんでもなく高いところにいるのに気付いたとき、わたしは動けなくなってしまいました。「こんなところから落ちたらどうしよう」と思うと、怖くて動けなかったのです。
 すると、それに気づいた先生が上からわたしを呼びました。「大丈夫だよ。ほら、こっちを見て前に進んでごらん。」その声を聞いてわたしが顔を上げると、そこにはにっこり微笑んでいる先生の顔がありました。その顔を見たとき、わたしは心から安心し、「ああ大丈夫なんだ」と思ってまた前に進むことができました。
 今もときどき先に進むのが不安になり、うずくまって動けなくなるようなことがありますが、そんなときわたしはこの体験を思い出します。下を見ると、遊具にしがみついている自分の小さな手しか見えません。もし手を滑らせたらどうしよう、足を踏み外したらどうしよう、そんなことばかりが頭をよぎります。下を見ると、わたしたちは自分のことばかり考えて怖くなり、前に進めなくなってしまうのです。ですが、顔をあげて前をしっかり見ればそこには先生が優しく見守っていてくれます。わたしたちの前には、いつもイエス様がいてわたしたちをにっこり微笑みながら見守っていてくださるのです。下を見て立ち止まることなく、いつもイエス様の方をまっすぐに見て前に進みたいと思います。
※写真の解説…浅間山に向かって続くまっすぐな農道。