バイブル・エッセイ(220)ただ一つの道しるぺ


ただ一つの道しるべ
「あなたがたは、雲が西に出るのを見るとすぐに、『にわか雨になる』と言う。実際そのとおりになる。また、南風が吹いているのを見ると、『暑くなる』と言う。事実そうなる。偽善者よ、このように空や地の模様を見分けることは知っているのに、どうして今の時を見分けることを知らないのか。あなたがたは、何が正しいかを、どうして自分で判断しないのか。あなたを訴える人と一緒に役人のところに行くときには、途中でその人と仲直りするように努めなさい。さもないと、その人はあなたを裁判官のもとに連れて行き、裁判官は看守に引き渡し、看守は牢に投げ込む。言っておくが、最後の一レプトンを返すまで、決してそこから出ることはできない。」(ルカ12:54-59)
 「あなたがたは空や地の模様を見分けることは知っているのに、どうして今の時を見分けることを知らないのか」(ルカ12:56)と主はおっしゃいます。東日本大震災原発事故によってもたらされた混乱の中で、今こそ時のしるしを見極め、進むべき方向を識別することが求められているように思います。
 先日、福島市にあるカトリック野田町教会を訪ね、小学生のお子さんを持つ4人のお母さんたちから話をうかがいました。福島のお母さんたちを「親のエゴで子どもの命を危険に晒している」とでも言わんばかりの口調で批判する人たちがいますが、決してそんなことはありません。話を聞けば聞くほど、彼女たちがどれだけ子どもたちのことを心配し、子どもたちの幸せを願っているかが分かります。彼女たちは専門家の講演会がある度ごとに出かけ、真剣にノートを取って研究していますが、一番大きな問題は専門家の間でさえ放射能の危険性について意見がばらばらだということです。「すぐに逃げろ」と言う人もいれば、「大丈夫だから落ち着きなさい」という人もいる、一体誰を信じたらいいのかわかりません。そんな中で、彼女たちは子どもを守るため、暮らしを守るためにぎりぎりの判断を下しています。
 福島の外にいる私たちにも、難しい判断が求められています。放射能の危険性について、何を基準に判断すればいいのでしょう。残されたただ一つの判断基準は、神が与えてくださる「時のしるし」を読み解くことだと思います。「時のしるし」は、不条理な時の流れに翻弄され、苦しんでいる人々の中にこそあります。「人々の苦しみに寄り添い、その人々の心に主の平和をもたらすにはどうしたらいいか」、その問いだけが私たちの道しるべとなるでしょう。
※写真の解説…福島市渡利地区にて。子どもたちが自由に遊べるブランコからも、2.5μSv/hという値の放射能が検出される。