やぎぃの日記(120)福島のお母さんたち1〜誰が本当のことを?


福島のお母さんたち1〜誰が本当のことを?
 今回の東北行きでぜひ会いたいと思っていたのが、福島市で子育て中の私の友人、稲葉景さんだ。稲葉さんは上智大学大学院で神学を学んだあと、福島で小学生6年生の息子を育てる傍ら、東京の大学で非常勤講師をしている。福島で子育てを続けるお母さんたちに対して「なぜ逃げないの。親のエゴで子どもの命を危険にさらして」などと批判する人々がいる中で、彼女たちは一体どんな思いで福島に残り、子育てをしているのか、それが知りたかった。稲葉さんの他に3人のお母さんたちも話してくれることになり、10月15日の午前中、わたしたちは福島市内のカトリック野田町教会で会うことになった。この企画に興味をもったカトリック新聞の記者さんも同席してくれた。
 まず、震災の日にさかのぼって話してもらった。彼女たちが口々に訴えたのは、今から思えば福島に一番大量の放射性物質が降り注いでいた時期に、彼女たちの誰もそのことを知らなかったということだ。稲葉さんだけは海外の友人から届いたコンピュータによる放射能拡散シュミレーションのデータを見たというが、日本の政府もメディアもそのことはほとんど取り上げず、放射能の影響については「ただちに健康に影響があるレベルではない」というアナウンスを繰り返すだけだった。3月15日の降りしきる雪の中も、あるお母さんは高校入試のために子どもと一緒に外出したという。
 福島市に大量の放射性物質が降り注いでおり、最も高い時で空間線量が24.3μSv/hにも達していたことを政府やメディアが知らせ始めたのは、大量放出が止んだ3月末頃だった。彼女たちは、本当のことを知らせてくれない政府やメディアに深刻な不信感を抱くようになっていった。市長や役人など、放射能についての情報を先に知った人たちだけが、先に家族を県外に逃がしたというような噂も聞こえてくるようになった。英語教師をするアメリカ人のご主人を持つお母さんは、他のネイティブ教師がみな福島から逃げてしまう中、自分だけはとどまって何とか学校を守ろうとするご主人の前で避難などと言い出す気持ちにさえならなかったという。
※写真の解説…放射能についての不安や、しだいに強まる福島差別のことなどを熱心に語るお母さんたち。福島市カトリック野田町教会にて。