やぎぃの日記(123)福島のお母さんたち4〜子どもの幸せ


福島のお母さんたち4〜子どもの幸せ
 3月の段階で、放射能の飛散方向についての情報を隠し、市民に全く伝えなかった政府やメディアへの信頼は失われた。4月以降、市内各地で行われた専門家、大学教授や医師たちの講演も放射能の危険性についての見解がばらばらで、誰を信頼してよいかわからなかった。そんな中でお母さんたちに残された選択肢は、①安全と信じて子どもたちを外で遊ばせる、②危険と信じて避難する、③両方の意見に耳を傾けながら状況を見極めるという3つだけだった。多くのお母さんたちは③の道を選び、子どもたちを放射能から守りつつ、福島での生活を続けている。
 しかし、まったく子どもを外に出さないというわけにもいかない。事故から7ヶ月以上が過ぎ、放射能よりもむしろ、そのストレスのために体調を崩す子どもたちが出始めている。外では遊べない、テレビをつければ絶えず放射能についての警戒情報が流れているという状態では、ストレスをためるなという方が無理だろう。そんな中で、お母さんたちは子どもをどこまで外に出すか、例えばサッカー、野球、水泳などの練習に出すべきなのか、学校の運動会に出席させるべきなのかなど難しい判断を迫られている。
 あるお母さんの子どもは、中学、高校と野球に打ち込み、青春の夢を甲子園出場にかけてきた。その子を、甲子園出場をかけた最後の試合に出してやるべきなのかどうか。もし出場させなければ、健康へのリスクは避けられたとしても、子どもの心に大きな傷が残るのではないか。健康リスクと子どもの夢、一体どちらを重く見るべきなのだろうか。
 ある小学校では、激しい議論の末に、運動会を開催することに決定した。運動会を中止すれば、子どもたちの健康へのリスクは避けられたとしても、小学校時代の大切な思い出の一つが失われる。特に六年生の子どもたちにとっては、最後の運動会だ。子どもたちに楽しい思い出を残してやりたいという親たちの思いが、放射能への不安を上回った。
 家の中や教室でじっとしていた思い出ばかりの子ども時代を過ごす子どもは、果たして幸せなのか。将来起こるかもしれない健康被害のリスクも視野に入れながら、どうしたら子どもたちの幸せを守ることができるのか。お母さんたちの悩みは尽きることがない。
※写真の解説…福島市カトリック野田町教会の聖母子像。