やぎぃの日記(149)『韓国とキリスト教』(浅見雅一・安廷苑著)


『韓国とキリスト教〜いかにして"国家的宗教"になりえたか』(浅見雅一・安廷苑著)

 日本のキリスト教人口は、総人口の約1%。それに対して、韓国ではキリスト教人口が総人口の30%に達しているという。同じ文化圏に属し、お隣同士である日本と韓国にどうしてこれほど大きな違いがあるのか。なぜ日本ではあまり広まらなかったキリスト教が、韓国では爆発的に広まったのか。7月に韓国を訪れたとき、わたしが一番知りたかったのはそのことだった。それだけに、先日、書店でこの本を見つけた時の喜びは大きかった。
 著者の浅見氏は日本キリシタン史の研究家、安氏は中国キリスト教史の研究家。この両氏が、双方の研究領域のはざまにあり、双方と深く関係している韓国キリスト教史の概略を客観的に描いたのがこの本だ。浅見氏がイエズス会資料の研究家であることから親近感も湧き、ぐいぐいと引き込まれるように読んでしまった。
 韓国でキリスト教が広がった根本的な理由は、7月に韓国を訪れたときイエズス会韓国管区の現管区長、シン・ウォンシュク神父が指摘してくれた通り社会全体の不安定さにあることは間違いないだろう。日本でも、社会情勢が極度に不安定だった戦国時代には、キリスト教徒が爆発的に増えた。国内のすべての秩序が崩壊していく中で、人々が外来の宗教に心の拠り所を求めたのがその大きな理由だと考えられている。韓国では日本軍の占領、朝鮮戦争軍事独裁政権などによって、それに匹敵するほどの社会不安がごく最近まで続いていた。その中で、人々が心の拠り所をキリスト教に求めた結果が、現在の韓国におけるキリスト教の隆盛だということだ。
 この本には、次々と起こる社会不安の中で、カトリック教会とプロテスタント教会がどのように行動し、どのように人々の信頼を勝ち得ていったかが克明に描かれている。まず、日本占領下の抗日運動において、プロテスタントの教会や学校がその活動拠点となり、人々の信頼を集めた。それに対して、カトリック教会は神社参拝強制を容認するなど、日本に協力的な態度をとったため、人々の信頼を失っていったと著者は指摘する。バチカンが日本をアジアにおける反共産主義の最後の砦と考え、その戦争遂行に協力したことは聞いていたが、それが韓国におけるプロテスタント教会の隆盛と表裏一体だったとは知らなかった。
 初代大統領の李承晩を始め、抗日運動のリーダーのプロテスタント信徒たちがそのまま韓国政府のリーダーになったことから、プロテスタント教会は軍事政権に対して寛容な立場を取る傾向を示した。それに対して、カトリック教会は60年代末から選挙の平等など、政治の民主化を求める運動に深く関わっていくようになる。キム・スーハン枢機卿が警官隊に追われた学生を明洞大聖堂に匿った事件に象徴されるように、カトリック教会はこの民主化運動の中で人々の信頼を得、信徒数を増やしていったという。社会への積極的な発言が、韓国におけるカトリック教会の成長の鍵だったと言っていいだろう。
 これらのこと以外にも、韓国に初めてキリスト教を伝えたのがイエズス会マテオ・リッチの著した『天主実義』であったこと。韓国人で最初にキリスト教徒となった李承薫に洗礼を授けたのが、北京に派遣されていたイエズス会員であったことなど、イエズス会員として興味深い事実もいくつか記されていた。韓国の教会の歴史が、日本の教会に教えてくれることは多い。ぜひ一読をお勧めしたいと思う。

韓国とキリスト教 (中公新書)

韓国とキリスト教 (中公新書)