祈りの小箱(82)『バランスの悪い想像』


『バランスの悪い想像』
 先のことを考えるとき、わたしたちの想像力はどうしても悪い方へ、悪い方へと向かっていきます。「こうなったら、ああなるかもしれないし、そうなったらこうなる」というように、わたしたちは次々と悪いことを考えて、不安や心配に陥っていくのです。どうやら、わたしたちの想像力には、構造的に大きな欠陥があるようです。
 将来に起こる悪いことを想像するとき、わたしたちは天才的な能力を発揮します。たとえば、仕事がちょっとうまくいかなくなっただけでも、「これでわたしの評価はがた落ちだ」「将来の出世はあきらめなければ」「彼女にも振られるかもしれない」などと、次から次へと悪いことを想像してしまうのです。ほとんどの場合、実際にはそこまで悪いことは起こらないし、失敗を補うような成功や、周りの人たちからの助けもやってくるのですが、わたしたちは残念ながら、起こるかもしれないよいことを想像するのはとても苦手です。だから、悪いことばかり考えて、やる気をなくしたり、絶望したりしてしまうのです。結果として、そのような本人の態度から、本来起こるはずだった以上に悪いことが起こるということにもなりかねません。
 よいことは、神様から突然に思いがけない形でやってくるので、わたしたちには想像することができません。それに対して、悪いことは一つ起こると次々により悪いものを想像していくことができます。そのため、わたしたちの将来についての想像は、どうしてもバランスの悪いものになってしまうのです。イエズス会創立者、聖イグナチオは、これを悪魔の誘惑と呼んでいます。修道生活で困難に直面した人に悪魔は「これから先、何十年もこんなことが続くのだぞ。お前に耐えられるのか」と囁きかけます。しかし、実際には悪いことをはるかに上回るほどの喜びと恵みを神様は準備して下さっているのです。だから、何も心配せず、将来のことは神にすべて委ねるよう聖イグナチオは勧めています。悪いことだけを想像させ、気持ちをくじけさせるのは、悪魔がわたしたちを堕落させるために使う常套手段なのです。
 大切なのは、将来を心配し過ぎて、いまできることをしないことです。不完全な、バランスの悪い想像をして不安がっている暇があれば、いま分かっていること、いまできることに集中する方がいいでしょう。神様からあたえられた使命を、いま全力で生きる人のために、神様はかならずすばらしい将来を準備して下さるに違いありません。
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