『なぜゆるせないのか』
他の人はあまり気にしていないようなのに、自分だけがある人の言動をどうしてもゆるせない。そんな不可解なことがときどき起こります。なぜでしょう？
学生の頃にこんな体験をしたことがあります。食事の席である人が、自分の能力がどれほど優れているかについて自慢話を始めました。初めは「へえーっ、すごいな」と思って聞いていたのですが、10分、20分と聞いているうちにわたしはだんだん腹が立ってきました。「なぜ、この人は自分の話しばかりするのだろう」と思い始めたのです。
食事が終わって一緒の席にいた仲間に、「今の話し、どう思った。ぼくは途中から腹が立って聞いていられなかったよ」と話すと、意外にも「そう？おもしろい話だったじゃないか。ぼくは別に気にならなかったけど」という答えが返ってきました。
家に戻ってから、わたしは、なぜ自分はあの場面で腹を立ててしまったのだろうと考えました。しばらく自分自身の心の中を見ているうちに気が付いたのは、自分自身の心の中に「わたしの話を聞いてほしい、わたしの能力を認めてほしい」という思いがあることでした。つまり、わたしの怒りは、「なぜあの人ばかり話すんだろう。ぼくも話して、みんなから注目されたいのに」という怒りだったのです。
そのことに気づいてからは、同じ場面に出くわしても、もうほとんど腹が立たなくなりました。「ああ、あの人も自分の存在を認めてほしいんだな。ここは聞いてあげよう」と思えるようになったからです。
そういう目で世の中を見ていると、同じようなことがあちこちにあります。例えば、どういうわけか執拗に目上や権力者を批判し続ける人。そんな人に限って、自分が力を握ったときには横暴な専制君主のようになることが多いのです。自分自身の清貧をゆるがせにしている人に限って、他の人の贅沢な生活を批判するということも一般的な傾向のようです。結局のところ、わたしたちは自分がしたいこと、自分よりもうまくしている人をゆるせないのかもしれません。
★このカードは、こちらからダウンロードできます。⇒
JPEG 『なぜゆるせないのか』.JPG 
PDF 『なぜゆるせないのか』.PDF 
