祈りの小箱(151)『裸の王様』


『裸の王様』
 こんな笑い話があります。ある有名な映画スターが、地方の小さな町でタクシーに乗りました。仕事に遅れそうで急いでいた彼は、自分の名を言えば運転手が驚いて協力してくれるだろうと思って、「ぼくは〇〇なんだ。急いでくれないか」と運転手に頼みました。すると運転手は答えました。「きみは〇〇なのか。ぼくはジョージだ。よろしく。でも、これ以上スピードを上げるのは危険だからできないよ。」この運転手は、その映画スターの名前を知らず、てっきり自己紹介をされたのだと思ったのです。
 名誉や権威というのは、このようなものです。自分では立派な名誉や権威を身にまとっていると思い込んでいても、知らない人から見れば、何も着ていない裸の人。ただの人にしか見えないのです。「裸の王様」の物語と同じで、ふんぞりかえっているのを人から笑われたとき、その人は初めて自分が裸であることに気づくのです。
 わたし自身は、知的障害を負った仲間たちのところにボランティアに行くたびに、名誉や権威に頼ることの愚かさを痛感します。わたしが神父であろうが何であろうが、彼らにとってはそんなことは関係がありません。ただ優しい人か、それとも怖い人か、そばにいると気持ちがいいか、それとも居心地が悪いか、それだけがすべてなのです。彼らの目に見えているのは、わたしという人間そのものであって、わたしが身にまとっている肩書ではないのです。思い上がって威張った態度をとれば、彼らは「この人はよくない人」と思いますし、謙遜で優しい態度をとれば、彼らは「この人はいい人」と思う。ただ、それだけなのです。偉い人であることよりも、よい人であることを大切にしたいと思います。
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