バイブル・エッセイ(958)捧げて生きる

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捧げて生きる

 イエスを十字架につけたのは、午前九時であった。罪状書きには、「ユダヤ人の王」と書いてあった。また、イエスと一緒に二人の強盗を、一人は右にもう一人は左に、十字架につけた。そこを通りかかった人々は、頭を振りながらイエスをののしって言った。「おやおや、神殿を打ち倒し、三日で建てる者、十字架から降りて自分を救ってみろ。」同じように、祭司長たちも律法学者たちと一緒になって、代わる代わるイエスを侮辱して言った。「他人は救ったのに、自分は救えない。メシア、イスラエルの王、今すぐ十字架から降りるがいい。それを見たら、信じてやろう。」一緒に十字架につけられた者たちも、イエスをののしった昼の十二時になると、全地は暗くなり、それが三時まで続いた。三時にイエスは大声で叫ばれた。「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。そばに居合わせた人々のうちには、これを聞いて、「そら、エリヤを呼んでいる」と言う者がいた。ある者が走り寄り、海綿に酸いぶどう酒を含ませて葦の棒に付け、「待て、エリヤが彼を降ろしに来るかどうか、見ていよう」と言いながら、イエスに飲ませようとした。しかし、イエスは大声を出して息を引き取られた。すると、神殿の垂れ幕が上から下まで真っ二つに裂けた。百人隊長がイエスの方を向いて、そばに立っていた。そして、イエスがこのように息を引き取られたのを見て言った。「本当に、この人は神の子だった。」(マルコ15:25-39)

 十字架上でイエスが息を引き取ったとき、一人の百人隊長が、「本当に、この人は神の子だった」と言ったとマルコ福音書は伝えています。あらゆる苦しみに耐えて信念を貫き通したイエスの姿に、これまでに自分自身も命がけで数々の戦いを戦い抜いてきたであろう百人隊長は心を揺さぶられたでしょう。「自分がローマ帝国に命を捧げたローマの子だとすれば、イエスは神に命を捧げた神の子だ」。百人隊長は、そのように考えたのかもしれません。

 今月、宇部・小野田協働体では2つの大きなお祝いがありました。一つは三喜田神父様の95歳の誕生日、もう一つは西山神父様のイエズス会入会50年の記念日です。このお二人に共通して言えるのは、人生のすべてを神に捧げ尽くしているということでしょう。愛するイエス・キリストのため、キリストから委ねられた人々のためならば、自分の命を捧げても構わない。お二人からは、確かにそのような神への深い愛、確かな信仰が感じられます。司祭職、修道召命という十字架を通して自分を神に捧げるお二人の姿は、十字架上のキリストとぴったり重なります。お二人の姿を見るとき、わたしは「本当に、この人たちは神の子だ」と言わざるをえません。

 もちろん、お二人にも苦しみはあったでしょう。司祭職、修道召命を生き抜くということは、それほど簡単なことではないからです。例えば孤独。修道会の仲間や教会の信徒たちが「家族」とはいえ、結婚せず、自分の家族を持たない生活は、いつも喜びに満ちているわけではありません。年をとり、体が弱ってくれば、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」と叫びたいようなときも、きっとあるでしょう。それにもかかわらず、じっと黙ってその苦しみに耐え、神への愛を貫き通しておられるのです。その苦しみがあるからこそ、お二人の笑顔はよりいっそうあたたかく、わたしたちを愛のぬくもりで包み込んでゆくのでしょう。お二人の十字架を通して、神の愛がこの世界にあふれ出しているのです。

 十字架の証、十字架の愛は、遠い昔の話ではありません。いまも、イエス・キリストは、お二人のような司祭、修道者たちを通してご自分を十字架にかけ、わたしたちへの愛を目に見える形ではっきりと示しておられるのです。キリストの十字架は、いつもわたしたちの目の前にあると言ってもいいでしょう。見る目さえあれば、わたしたちはいつでもキリストの愛をはっきりと目にすることができるのです。

 司祭、修道者だけではありません。十字架の栄光は、愛する家族や仲間のため、世界の人々の幸せのために自分を捧げて生きるすべての人々を通して輝いています。すでに生涯を捧げ尽くした人もいれば、まだ捧げるために戦っている最中の人もいるでしょう。そのような一人ひとりの中に、十字架の証、十字架の愛が確かに存在しているのです。イエス・キリストの模範、三喜田神父、西山神父の模範にならって、わたしたちも十字架の栄光をこの地上に輝かすことができるよう共に祈りましょう。

 

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