バイブル・エッセイ(1026)声を聞き分ける

声を聞き分ける

 そのとき、イエスは言われた。「わたしの羊はわたしの声を聞き分ける。わたしは彼らを知っており、彼らはわたしに従う。わたしは彼らに永遠の命を与える。彼らは決して滅びず、だれも彼らをわたしの手から奪うことはできない。わたしの父がわたしにくださったものは、すべてのものより偉大であり、だれも父の手から奪うことはできない。わたしと父とは一つである。」(ヨハネ10:27-30)

「わたしの羊はわたしの声を聞き分ける」とイエスは言います。羊であるわたしたちの側から言えば、イエスの羊になりたいなら、イエスの声を聞き分ける必要があるということです。日々の生活の中で判断に迷い、「神さま、どちらを選んだらよいのでしょうか」と祈るとき、わたしたちの心にいくつもの思いが去来します。そんなとき、どうしたらイエスの声を聞き分けられるのでしょう。悪い者の誘惑を退け、イエスの後についていくためにはどうしたらよいのでしょう。

 イエスの声を聞き分けるために、大切なことが3つあると思います。1つ目は、自分の思いを手放すということです。自分としてはこちらの方が好ましいと思える選択肢があったとしても、いったんそれは手放し、まったく白紙の状態でイエスの声に耳を傾けるのです。聖母マリアは、天使のお告げを聞いたとき、「わたしは主のはしためです。お言葉どおりになりますように」と答えました。「自分ははしために過ぎませんから、どの道が正しいのか分かりません。ただ、あなたの導きを信じてついて行きます」ということです。わたしたちも、同じようにすべきでしょう。羊に過ぎないわたしたちに、羊飼いの思いが理解できるはずがないからです。イエスの声を聞き分けるためには、「自分には何もわからない」というこということを前提に、謙虚な心で耳を傾ける必要があるのです。

 2つ目は、心の奥深くから聞こえてくる、小さな声に耳を澄ますということです。わたしたちを誘惑しようとする声は、ほとんどの場合、大きな声で話しかけてきます。誘惑する者は、わたしたちの心の表面にある欲望、妬み、恐れなどを使って話しかけてくるので、その声は大きく聞こえるのです。それに対して、イエスの声は、心の奥深くから聞こえてくる小さな声です。イエスの声を聞きとり、イエスの声に従いたいなら、耳を澄まして、心の奥深くからささやく小さな声を聞き取る必要があります。

 3つ目は、選んだときに、心の底から喜びや希望、力が湧き上がって来る声を選ぶということです。心の底から喜びや希望、力が湧き上がるのは、心が愛で満たされたときですから、わたしたちを愛に導く声を選ぶと言い換えてもいいでしょう。もし自分の望んでいないことであったとしても、それを選ぶと決めたときに、心の奥深くから喜びや希望、力が湧き上がって来たなら、それこそ、その声がイエスの声であることの何よりのしるしです。

 心の奥深くから静かに響くイエスの声、それはわたしたち自身の心の声でもあります。自分の心の奥深くにある神秘的な部分、イエスが宿る聖なる神殿から響いてくる声は、わたしたち自身の声であると同時に、イエスの呼びかける声なのです。イエスの声に従うとは、普段、忙しさに追われたり、欲望に引きずられたりして聞くことのない自分自身の本当の気持ちに耳を傾け、その気持ちに忠実に生きることだと言ってもよいでしょう。自分自身と向かい合い、イエスと向かい合いながら、イエスの導く声に従って生きてゆくことができるよう、羊飼いであるイエスの声を聞き分ける、よい羊になることができるよう、心をあせて祈りましょう。

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