バイブル・エッセイ(1189)相手も神さまの子ども

相手も神さまの子ども

「わたしの言葉を聞いているあなたがたに言っておく。敵を愛し、あなたがたを憎む者に親切にしなさい。悪口を言う者に祝福を祈り、あなたがたを侮辱する者のために祈りなさい。あなたの頬を打つ者には、もう一方の頬をも向けなさい。上着を奪い取る者には、下着をも拒んではならない。求める者には、だれにでも与えなさい。あなたの持ち物を奪う者から取り返そうとしてはならない。人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい。自分を愛してくれる人を愛したところで、あなたがたにどんな恵みがあろうか。罪人でも、愛してくれる人を愛している。また、自分によくしてくれる人に善いことをしたところで、どんな恵みがあろうか。罪人でも同じことをしている。返してもらうことを当てにして貸したところで、どんな恵みがあろうか。罪人さえ、同じものを返してもらおうとして、罪人に貸すのである。しかし、あなたがたは敵を愛しなさい。人に善いことをし、何も当てにしないで貸しなさい。そうすれば、たくさんの報いがあり、いと高き方の子となる。いと高き方は、恩を知らない者にも悪人にも、情け深いからである。あなたがたの父が憐れみ深いように、あなたがたも憐れみ深い者となりなさい。人を裁くな。そうすれば、あなたがたも裁かれることがない。人を罪人だと決めるな。そうすれば、あなたがたも罪人だと決められることがない。赦しなさい。そうすれば、あなたがたも赦される。与えなさい。そうすれば、あなたがたにも与えられる。押し入れ、揺すり入れ、あふれるほどに量りをよくして、ふところに入れてもらえる。あなたがたは自分の量る秤で量り返されるからである。」(ルカ6:27-38)

「敵を愛しなさい」というイエスの言葉が読まれました。聖書に出てくるイエスの教えの中で、最も実行が難しい教えと言っていいかもしれません。敵と言えば、わたしたちに対して悪意を抱き、攻撃してくる相手のことです。そんな人を、愛するなんてできるのでしょうか。イエスはなぜ、こんな難しいことを言ったのでしょう。
 一番大きな理由は、わたしたちにとって敵であるその相手も、神さまの目から見れば大切な神さまの子どもだということだと思います。いまその人は、自分が神さまの子どもであることを忘れ、私利私欲にとらわれて間違った行動をしているかもしれません。しかし、そんな状態であっても、神さまにとっては大切な子どもの一人。道を踏み外してしまったその人をなんとか助けたいというのが神さまの思いなのです。
「敵を愛する」ための第一歩は、この神さまの思いに気づくこと、「この人も、神さまから見れば大切な子どもなのだ」と気づくことだといってよいでしょう。相手をゆるせないのはもっともなのですが、わたしたちにとって何より大切なのは、自分の感情よりも神さまの思いです。「ゆるせない相手だけれど、この人も神さまの子どもだ」と思うことで、少しずつ相手への気持ちが変わっていく。そのあたりから「敵を愛する」ということが始まるのではないかとわたしは思っています。冷静に考えてみれば、相手がこんな態度をとっているのにも、それなりの事情がある。わたしも、もう少し落ち着いて対応すればよかったかもしれないなどと思い巡らしながら、「神さま、わたしはこの人のために何ができるでしょうか」と祈りの中で神さまに尋ね続けるなら、神さまはきっと答えてくださるでしょう。
 もう一つ考えなければならないのは、敵を愛さず、逆に敵を憎んだり、滅ぼしたりしようとすればどうなるかということです。わたしもついかっとして、「あんなやついなければいいのに」と考えてしまうことがありますが、それは、神さまの愛とはまったく反対の考え方。この世界に分裂と争いをもたらそうとする悪魔の誘惑だと言ってよいでしょう。憎しみに呑み込まれるとき、わたしたちは神さまの愛から離れ、自分で自分を苦しみの中に閉じ込めてしまうのです。ダビデが、自分の命をつけ狙うサウルの命をほぼ手中におさめながら、「主が油を注がれた方に手をかければ、罰を受けずには済まない」といったのも、この理由からでしょう。どんなにゆるせない相手であっても、攻撃すれば、わたしたちは自分で自分を滅ぼしてしまうのです。
「敵を愛しなさい。そうすれば、たくさんの報いがあり、いと高き方の子となる」とイエスは言います。自分を攻撃する相手さえも「神さまの子ども」として見ることができれば、わたしたしたちの心は神さまの愛で豊かに満たされる。神さまの子どもとして、胸を張って生きることができるということでしょう。「敵を愛する」というこの難しい掟を、真剣に受け止めることができるように。そうすることで、少しずつ「神さまの子ども」の本来の姿を取り戻していくことができるように、心を合わせて祈りましょう。

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