カルカッタ報告(32)8月26日ニュー・マーケット①


 シシュ・ババンに戻ると、ちょうどボランティア説明会が終わるところだった。日本人の新しいボランティアが、わたしたちのグループも含めて20人くらいはいるようだった。みな学生くらいの年齢だ。
 説明会が終わった後、わたしたちは徒歩でニュー・マーケットに向かった。こちらで着るためにインドの服を買いたかったからだ。わたし自身も、日本から1着だけ持ってきていたが、着替えがなかったのでもう1着買っておきたかった。やはり、インドで過ごすにはインドの服が一番いいとわたしは思っている。
 シシュ・ババンを出てマザー・ハウスの方に少し戻り、右に曲がってアリムディン・ストリートという細い道に入った。その道をまっすぐ進んでいくと、安宿街として有名なサダル・ストリートや、カルカッタ最大のマーケットであるニュー・マーケットの方面に出られるのだ。
 マザー・ハウスは、A.J.C.ボースロード、パーク・ストリート、レーニン・サラニー、チョーロンギー・ロードという4本の大通りに囲まれた地域にあるが、その大きな四角形の中にある道はどれも細くて曲がりくねっている。突然行きどまりになったり、ぐるっと曲がってまったく別の方向に進み始めたり、まるで迷路のようだ。ニュー・マーケットは、マザー・ハウスからその地域を横切った反対側のチョーロンギー・ロードに面したところにある。
 昔、長く住んでいたころも、よくこの四角形の地域で迷子になった。なにしろ道を1本間違えると、とんでもないところに出てしまう。道は分からないしカルカッタの暑さの中で体力はどんどん消耗していくし、何度も泣きそうな思いをしたことがある。アリムディン・ストリートを通ってサダル・ストリートに出るルートは、そんな迷路の中では割とわかりやすい方だ。
 アリムディン・ストリートに入ってしばらく進むと、道の両側にたくさんの店が並び始めた。昔もここに小さなマーケットがあったのだが、これほどたくさんの露店は出ていなかった。果物、肉、野菜、生活雑貨など、日常生活に必要なものを売る露店が道の両側にところ狭しと並び、そのあいだをたくさんの人々が行きかっている。まるで人の波をかき分けながら進んでいくようだった。この地域にはやはりイスラム教徒が多いようで、イスラム教徒独特の帽子をかぶった男性や、ベールを身にまとった女性の姿をよく見かけた。
 マーケットを抜けてしばらく進んでいくと、安宿が道端にちらほらと現れ始めた。サダル・ストリートが近付いてきた証拠だ。このあたりで1回右に曲がらなければと思いながら進んでいくうちに、突き当りに出くわしてしまった。道を間違えたのだ。まあ、それでも右に進めばサダル・ストリートに出るので問題はない。
 右に曲がって歩いて行くと、すぐにブルー・スカイ・カフェの前に出た。サダル・ストリートで最も有名なレストランだ。昔、「死を待つ人の家」でボランティアをした帰り道、地下鉄でサダル・ストリートまで来てこの店でよく食事をしたものだ。外国人向けのバラエティー豊かな食事を、安い値段で提供してくれるありがたい店だった。建て替えられて新しい建物になっているが、店の雰囲気はあまり変わっていない。窓ガラスが閉められているところを見ると、どうやらこの店にもエアコンが入ったようだ。店のすぐ隣には、インターネット・カフェができていた。 
※写真の解説…ニュー・マーケットに向かう道。