カルカッタ報告(33)8月26日ニュー・マーケット②


 せっかくなので、わたしたちはサダル・ストリートを散策することにした。無数の安宿が集まり、パックパックを背負った外国人たちがたむろしているこの通り自体、カルカッタの1つの名所と言えるだろう。両替所、最低限の衛生条件が整ったレストラン、旅行会社、雑貨屋、古本屋などパックパッカーたちに必要なものがすべてこの通りにそろっている。
 ブルー・スカイ・カフェの前を右に曲がり、わたしたちは消防署の方へ向かった。通りの様子は、昔とあまり変わっていない。ところどころに新しい建物ができたようではあるが、埃っぽいでこぼこの道を人力車や外国人たちが行き交う昔のままのサダル・ストリートだ。消防署の近くにある有名な安宿、マリアとパラゴンを目指してわたしたちは進んでいった。
 消防署の少し手前で右に曲がって細い道を入っていくと、まったく昔と同じ建物で「マリア」と「パラゴン」が並んでいた。わたし自身も、何回この宿に泊まったかわからない。蚊が多かったり湿っぽかったり、マリファナ中毒の旅行者がいたりして決して快適な居住空間ではなかったが、なにしろ安いのが魅力だった。15年前は、ドミトリーで1泊60円くらいだったと思う。個室でも200円くらいだった。日本で出版されたたくさんの本で紹介されているため、特に日本人の利用者が多い宿でもある。
 懐かしいホテルとの再会を果たした後、今度はインド博物館の方に向かって歩き始めた。インド博物館はチョーロンギー・ロードに面した大きな国立博物館だ。左手に博物館の赤い壁が見えてきたところで、わたしたちは右に曲がった。ニュー・マーケットと呼ばれるカルカッタで最大の市場に入るためだ。右折して200mほど人ごみの中を歩いて行くと、市場の建物が見えてきた。1階建てだが広大な敷地を持った建物の中には、日用雑貨、衣料品、食料品などを扱う店が無数に並んでいる。
 その建物に入る前にわたしたちはもう1度右折し、細い路地の奥にあるもう1つの有名なマーケット、「エアー・コンディション・マーケット」に入ることにした。名前の通り全館に冷房が入った、地上4階地下1階の、主に衣料品を扱う近代的なマーケットだ。中は人であふれ、人とぶつからずに歩くのも困難なくらいに混みあっているが、それを除けば日本の「イトー・ヨーカドー」などとあまり変わらない。すべての品物に値札が付いており、インド名物の値段交渉をする必要もない。
 昔はここの地下に食料品売り場もあったので、よく買い物に来た。たくさん並んだ食べ物の中でも、日清のインド工場が作っているマサラ・カップヌードルが特に魅力的だった。インド風の味付けではあったが、麺は日本のカップヌードルと同じもので、日本の味を思い出させてくれた。まだ売っているかなと思って地下に行ってみたが、残念ながら地下も衣料品売り場に変わっていた。
 「エアー・コンディション・マーケット」を出て、わたしたちがニュー・マーケットの建物に近づいて行くと、たちまち客引きに取り囲まれてしまった。この市場での買い物が大変なのは、客引きに付きまとわれることと、値段交渉の難しさのせいだ。客引きを追い払いながら、みんなで市場の中をぐるっと回った後、目印になる看板の前で解散して1時間ほど自由行動にすることにした。
 わたしと2人の女性は、結局、ニュー・マーケットでの買い物をあきらめて「エアー・コンディション・マーケット」に戻ることにした。その方が短い時間で楽に買い物をすることができるからだ。女性たちは上着、ズボン、ショールの3点セットで450ルピーのパンジャビ・ドレスを買い、わたしは上下で200ルピーのクルター・パジャマを買った(1ルピー≒2円)。
 買い物が終わって全員が集合した頃には、時刻はもう6時半になり、辺りは薄暗くなっていた。わたしたちはサダル・ストリートに戻って晩御飯を食べることにした。
※写真の解説…サダル・ストリートの有名な安宿、「マリア」と「パラゴン」。