カルカッタ報告(106)8月30日さよならカルカッタ②


 9時半ころ、旅行会社の車が到着した。わたしたちはホテルのフロントから預けておいた荷物を受け取り、車に乗り込むことにした。わたしたちが出ていこうとすると、ホテルの従業員さんたちがほとんど総出でわたしたちの荷物を車まで運んでくれた。わずか1週間の滞在だったが、メンバーたちとの間にさまざまな出会いがあったようだ。従業員さんたちが笑顔で手を振る中、わたしたちが乗り込んだ車は一路空港に向けて出発した。
 出発してすぐ、左手にマザー・ハウスの建物がちらりと見えたとき、わたしは胸がいっぱいになった。本当にこれでもうお別れだ。「さよなら、マザー」とわたしは心の中でつぶやいた。だが、悲しむ必要はない。マザーはもはや時間も空間も越えた世界で生きているのだから、いつだって会うことができる。そう自分に言い聞かて、わたしはこみ上げてくる涙を懸命にこらえた。
 わたしたちの乗った車は、交通量の少ない夜の道を快調に飛ばしていった。車窓から夜の街を見ていると、空が時々光っている。どうも稲光らしかった。困ったなと思っていると、間もなく激しい雨が車のフロントガラスを叩き始めた。車が空港に到着したときも、激しい雨が降っていた。飛行機の出発は午前2時だから、まだしばらく時間がある。それまでには雨雲もどこかへ行くだろう。そう高をくくって、わたしたちは空港の待合室で仮眠をとることにした。
 椅子に座ったままだから深くは眠れなかったが、うとうとしているうちに出発の30分前になった。わたしたちはボーディング・ゲートへ進み、飛行機に乗り込んだ。窓の外を見ると、幸い雨雲は去った様子だった。間もなく飛行機が離陸し、窓の外に見えるカルカッタの街の光が見る見るうちに小さくなっていった。「さよなら、カルカッタ」とわたしは心の中でつぶやいた。たまらない気持だったが、もう思い残すことはない。またいつか会う日まで、本当にこれでさよならだ。
※写真の解説…カルカッタの夕焼け空。