バイブル・エッセイ(1139)神のいつくしみ

神のいつくしみ

 その日、すなわち週の初めの日の夕方、弟子たちはユダヤ人を恐れて、自分たちのいる家の戸に鍵をかけていた。そこへ、イエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。そう言って、手とわき腹とをお見せになった。弟子たちは、主を見て喜んだ。イエスは重ねて言われた。「あなたがたに平和があるように。父がわたしをお遣わしになったように、わたしもあなたがたを遣わす。」そう言ってから、彼らに息を吹きかけて言われた。「聖霊を受けなさい。だれの罪でも、あなたがたが赦せば、その罪は赦される。だれの罪でも、あなたがたが赦さなければ、赦されないまま残る。」十二人の一人でディディモと呼ばれるトマスは、イエスが来られたとき、彼らと一緒にいなかった。そこで、ほかの弟子たちが、「わたしたちは主を見た」と言うと、トマスは言った。「あの方の手に釘の跡を見、この指を釘跡に入れてみなければ、また、この手をそのわき腹に入れてみなければ、わたしは決して信じない。」さて八日の後、弟子たちはまた家の中におり、トマスも一緒にいた。戸にはみな鍵がかけてあったのに、イエスが来て真ん中に立ち、「あなたがたに平和があるように」と言われた。それから、トマスに言われた。「あなたの指をここに当てて、わたしの手を見なさい。また、あなたの手を伸ばし、わたしのわき腹に入れなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい。」トマスは答えて、「わたしの主、わたしの神よ」と言った。イエスはトマスに言われた。「わたしを見たから信じたのか。見ないのに信じる人は、幸いである。」このほかにも、イエスは弟子たちの前で、多くのしるしをなさったが、それはこの書物に書かれていない。これらのことが書かれたのは、あなたがたが、イエスは神の子メシアであると信じるためであり、また、信じてイエスの名により命を受けるためである。(ヨハネ19:20-31)

 復活したイエスは、弟子たちに聖霊を送り、「だれの罪でも、あなたがたが赦せば、その罪は赦される」といって宣教に派遣しました。自分自身、神から罪をゆるされた者として、同じように罪の中で苦しんでいる人たちに神のゆるしを告げなさい。神の愛を、すべての人のもとに届けなさいということでしょう。
 「ゆるす」というと、ちょっと上から目線のようにも聞こえます。しかし、イエスはここで、弟子たちに人を裁く権威を与えたわけではありません。なぜなら、実際にゆるしてくださるのは神で、弟子たちの役割は、神のゆるしを告げることだけだからです。弟子たちは、神がどれだけいつくしみ深い方なのかよく知っています。神は、イエスを見捨てて逃げ出した自分たちでさえゆるしてくださる方。わたしたちの弱さを知りながら、それにもかかわらずわたしたちを愛してくださる方だということを、弟子たちは身をもって知っているのです。
 自分自身、ゆるされた罪人の一人として、神のいつくしみをまだ知らず、「自分なんかゆるされるはずがない。生きている意味がない」と思い込んで苦しんでいる人たちに、「いや、そんなことはありませんよ。神さまは、どんな罪でもゆるしてくださいます。何も心配する必要はありません」と告げること。神のゆるしを告げ、その人が安心して神のもとに立ち返り、神の愛の中で生きていけるようにすること。それが弟子たちに与えられた使命なのです。
 わたしたちにも、同じように、神のゆるし、神の愛を人々に告げる使命が与えられています。「こんな自分でも、神はゆるしてくださった。この神の愛を、同じように自分を責め、苦しんでいる人たちに伝えずにはいられない」、そのような思いに駆り立てられ、人々の元に出かけていくこと。それがわたしたちの使命なのです。
 しかし、残念ながら、わたしたちはときどき「こんな自分がゆるされるはずがない。わたしはダメな人間だ」という考え方に戻ってしまうことがあります。疑い深いトマスと同じで、目に見えない神の愛を、ときに疑ってしまうことがあるのです。そんなわたしたちのために、イエスは目に見える証拠を準備してくださいました。それが教会です。教会に行き、ミサに与ること、御聖体を頂くこと、信仰を共にする仲間と交わり、励ましあうことを通して、わたしたちは、「神はこんな自分でさえゆるし、大きな愛で包み込んでくださる」と実感することができるのです。「見ないのに信じる人は、幸いである」とはいいながら、見なければ信じられないわたしたち人間の弱さを知り、その弱さにそっと寄り添ってくださる方。それがイエスなのです。
 今日は「神のいつくしみの主日」ですが、神のいつくしみを人々に告げるためには、まず自分自身が神のいつくしみを実感する必要があります。目には見えない神の愛を、目に見える教会の交わりの中で実感し、神のゆるしを告げるために出かけていくことができるよう、心を合わせて祈りましょう。

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