カルカッタ報告(6)8月25日マザーの墓前へ


 シスター・ガートルードと話したあと、わたしたちは階段を下りてマザーの墓がある部屋に向かった。ついに、マザーの墓前に出るときがきたのだ。
 14年前、その部屋は修練者たちの食堂だった。マザーが帰天したとき、テーブルを片づけ、床のコンクリートをはがしてその部屋の地下に遺体を埋葬したという話は聞いていた。階段を下りてすぐ右側にある入口から入ると、白い大きな墓石の背面が見えた。マザーの墓は、入口の反対側の大通りの方に向かって縦に置いてあるのだ。
 ゆっくりと回りこんで、正面からマザーの墓と対面した。すでに何人かの人々が、ひざまずいて墓石に寄りかかるようにして真剣に祈っている。わたしたちも、それぞれ墓石に触れたり、少し離れて祈ったり、ひざまずいたりして思い思いの祈りをささげることにした。
 少し気後れがして、最初わたしは少し離れたところに立って祈った。だが、やがてひざまずかずにいられない気持ちになったので、他の人たちと同じように墓に近づくことにした。近づきながら、鼓動が少し早くなるのを感じた。
 ひざまずいて呼吸を整えると、なんともいえない不思議な安らぎが心に広がっていった。まぎれもない、昔マザーのそばに立ったとき、マザーの隣で祈っていたときに感じたあの感覚だ。そう思った瞬間、「マザーは生きている」という直感がわたしの全身をつらぬいた。マザーは死んでなどいなかったのだ。ここでこうして、人々にあふれるほどの愛を注ぎながら、マザー・テレサは今も生きている。
 「マザー、ようやく戻ってくることができました」と心の中で話しかけると、マザーが「よく戻ってきましたね。今や、あなたは司祭なのですよ」と言ってくれた気がした。そう、「ボランティアも美しいことだけれど、あなたにはもっと美しい道が待っていますよ。司祭になりなさい」という14年前のマザーの言葉がついに実現し、わたしは司祭になったのだ。司祭としてカルカッタに戻ってきたのだ。祈りの中で深い感動が全身を揺さぶり、涙ぐまずにいられなかった。
 夢の中ではこの14年のあいだ1度もマザーの墓の前に立つことができなかったが、それはこの感動を夢で味わうことなど不可能だったからだろう。実際に自分の足でカルカッタの大地を踏みしめ、マザーの墓の前に立ち、マザーに語りかけることによってのみ初めて本当の墓参りが実現する。仮に夢の中で墓の前に立っていたとしても、これほどはっきりと「生きているマザー」の存在を感じ取ることはできなかったはずだ。
 しばらくそうやってマザーとの再会の喜びをかみしめた後、立ちあがって他のメンバーを見ると、みなそれぞれに感無量といった表情を浮かべながら静かに祈っていた。それぞれに、マザーとの出会いを味わっていたのだろう。涙ぐんでいるメンバーもいた。立ち去り難かったが、まだ今日中に訪ねたいところが何箇所かあったので、写真を何枚か撮って墓前を離れることにした。
※写真の解説…マザー・ハウス1階にあるマザー・テレサの墓。