カトリック生活記事「『デジタル大陸』への宣教」


「デジタル大陸」への宣教〜SNStwitter、ブログの持つ可能性〜
 ドン・ボスコ社の月刊誌『カトリック生活』が1000号を迎えるにあたって組まれた特集「これからの宣教を考える」の中に、インターネットを利用した福音宣教の可能性について記事を書かせてもらいました。「読みたいけれども雑誌が手に入りにくい」という声も聞かれましたので、編集部のご厚意でブログに転載させていただきます。字数の制限もあって言い尽くせていない部分も多いのですが、何かのお役に立てば幸いです。

 2009年の「世界広報の日」メッセージで、教皇様がインターネットの発達によって出現した未開の宣教地「デジタル大陸」の存在に触れ、そこでの意欲的な宣教を呼びかけたとき、イエズス会員であるわたしの血が騒いだ。この地球の隅々まで、宣教師が足を踏み入れていない場所はもはやほとんどないと言っていいと思うが、インターネット上には未開の地がまだたくさんある。そして、その広大な大地には、人生の意味に飢え渇き、神の愛を探し求めている人々がたくさんいる。ならば、その地にわたしも足を踏み入れてみようと思ったのだ。この数年、わたしがこの「デジタル大陸」で試みた宣教活動を報告し、皆さんの参考に供したい。
インターネットでの宣教
1. ブログ
 ブログを開設したのは、2008年5月、カトリック六甲教会に赴任した直後のことだった。福音宣教のためにあらゆる可能性を試したいとの熱意に駆られたわたしは、インターネットのことは何もわからなかったが、ともかくブログを始めてみることにした。当初予定していた読者は、子育てや介護、あるいは勉強や仕事のために教会になかなか来られない人たちだった。ブログで提供する主日の説教や入門講座の講義録、教会活動の報告などが、教会とつながるための手がかりになればと思ったのだ。
 しばらくすると、これまで話したことがなかった信者さんたちが「ブログ、読みましたよ」と話しかけてくれるようになった。御主人の介護で教会から離れている方が、「毎日、寝る前に必ず読んでいます」と言ってくれることや、人間関係に疲れて教会から遠ざかっている方が「かろうじて、ブログで教会とつながっています」とコメントしてくれることもあった。
 写真展や講演会などで紹介したこともあって、ブログの読者はしだいに全国に広がっていき、月間アクセスも1万件を超えるようになっていった。読者が増えたのはうれしいことだったが、次第に読者の顔が見えなくなっていくという不安を感じ始めたのもこの頃だった。
2. twitter
 ブログの読者との距離を縮めてくれたのが、2009年5月に始めたtwitterだった。情報を読者に向かって一方的に流すブログと違い、twitterでは読者の反応が直ちに返ってくる。
 情報を伝える力の強さもtwitterの特徴だ。twitterで発せられた価値のある情報は、たちどころにネット上に広がっていく。わたしが発信した情報の中で一番反応があったのは、司教団が反原発の声明を出したことを紹介したもので、瞬く間にretweet(自分の友だち全員に、他の友だちからの情報を伝える機能)が300件を越えた。おそらく数万人が読んだことだろう。
 情報発信の他に、twitterでわたしが試みているのは、毎朝の「一行説教」と夜の祝福だ。その日の聖書箇所の一節に、簡単な解説をつけて発信する「一行説教」を、通勤通学の電車の中で読んでくださっている方も多いようだ。夜の祝福は、一日の書き込みの最後に「今晩も、皆さんの上に神様の祝福がありますように」と付け加えるだけなのだが、この一言で安心して眠れるという方もいる。 
 質問や相談を気軽に持ちかけることができるのもtwitterの特徴だ。ときには、限られた字数の中で、かなり深刻なやりとりが行われることもある。そんなとき思い出すのは、教皇様が「世界広報の日」のメッセージの中で語られた「対話する者どうしが自分の内面を深めることを怠らなければ、深遠な思想も聖書の一節ほどの短い表現で伝えることができます」という言葉だ。
 ブログとの相乗効果でtwitterでのつながりも次第に広がっていき、現在、わたしが発する情報を受け取って下さっている方は3700人ほどいる。
3. facebook
 東日本大震災の直後から、急速に利用者が増えたのがfacebookだ。次々と友だちの輪が広がり、今では2000人以上の方々とつながっている。教皇様がソーシャル・ネットワークを「新しいアゴラ」と呼んでいるが、facebookは空間を越えて様々な人々が集い、新しい出会いが生まれる「広場」と言っていいだろう。
 facebookの大きな特徴は、本名での登録が原則になっていることだ。多くの方は、自分の顔写真や職業、居住地なども公開している。このため、ブログや本を読んで下さる方々、写真展や講演会に来てくださった方々とつながりが深まっただけでなく、学生時代の同級生、中高での教え子、かつての同僚など、人生の様々な段階で出会った人々と再会することもできた。日本中で福音宣教に携わっている司祭や牧師たちとのつながりも生まれた。
 教会の中高生や大学生はほとんどが登録しているので、彼らが今何をし、何を考えているのかを知ることもできる。彼らのあいだでの交流にも役立っているようだ。facebookには写真投稿やコメント、投稿に賛意を示す「いいね」ボタンなど、ほどよい距離をとったコミュニケーションのために最適の機能が準備されている。
 近頃は、コメント機能を使って公開フォーラムのような意見交換を行う試みもしている。教会の現状などについて問いを投げかけると、たちまち何十人もの方がそれぞれの思いを分かち合ってくださるのだ。信徒の生の声を聞き、教会で今何が起こっているのかを知るためにも絶好のツールだと思う。
評価と展望
 どんなツールを使うにしても、教皇様が「デジタルの世界に参加するためのキリスト教的な方法」として示した「誠実かつ率直で、他者に対する責任と敬意をもったコミュニケーション」を実践することが大切だと思う。わたしが特に心がけているのは、公の場であるネット上では、どんなことがあっても他者を批判しないということだ。もし相手の意見と違うことを主張する場合は、相手の言い分を認めたうえで「ただ、〜のような見方もできるかもしれませんね」というような書き方をしている。
 こうして多くの方々とつながっていった結果、現在ブログの月間アクセス数は2万件を越えている。twitterfacebookでのつながりも広がる一方だ。これらの新しいメディアは、教会へと人々を招く道具、祈りや学びを助ける道具、様々な理由から教会にあまり来られない信徒と教会をつなぐ道具として大いに役立っていると思う。
 ただし、インターネットにできるのは「福音の種」を広く人々の心に蒔くところまでだ。蒔かれた種を育て、刈り取るのはやはり現実世界の教会だろう。現実世界にしっかりと軸足を置きつつ、「デジタル大陸」にキリストの声を響かせる宣教活動を続けていきたいと思う。
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