バイブル・エッセイ(1054)おびえるな

おびえるな

 ある人たちが、神殿が見事な石と奉納物で飾られていることを話していると、イエスは言われた。「あなたがたはこれらの物に見とれているが、一つの石も崩されずに他の石の上に残ることのない日が来る。」そこで、彼らはイエスに尋ねた。「先生、では、そのことはいつ起こるのですか。また、そのことが起こるときには、どんな徴があるのですか。」イエスは言われた。「惑わされないように気をつけなさい。わたしの名を名乗る者が大勢現れ、『わたしがそれだ』とか、『時が近づいた』とか言うが、ついて行ってはならない。戦争とか暴動のことを聞いても、おびえてはならない。こういうことがまず起こるに決まっているが、世の終わりはすぐには来ないからである。」そして更に、言われた。「民は民に、国は国に敵対して立ち上がる。そして、大きな地震があり、方々に飢饉や疫病が起こり、恐ろしい現象や著しい徴が天に現れる。しかし、これらのことがすべて起こる前に、人々はあなたがたに手を下して迫害し、会堂や牢に引き渡し、わたしの名のために王や総督の前に引っ張って行く。それはあなたがたにとって証しをする機会となる。だから、前もって弁明の準備をするまいと、心に決めなさい。どんな反対者でも、対抗も反論もできないような言葉と知恵を、わたしがあなたがたに授けるからである。あなたがたは親、兄弟、親族、友人にまで裏切られる。中には殺される者もいる。また、わたしの名のために、あなたがたはすべての人に憎まれる。しかし、あなたがたの髪の毛の一本も決してなくならない。忍耐によって、あなたがたは命をかち取りなさい。」(ルカ21:5-19)

 世の終わりと聞いて慌てる人たちに、イエスは「戦争とか暴動のことを聞いても、おびえてはならない。世の終わりはすぐには来ないからである」と言いました。おびえずに、いま自分がすべきことをせよということでしょう。世の終わりにおびえて余計なことをし、神さまから自分に与えられた使命をなおざりにすることがあってはならないのです。

 世の終わりが近いと思い込んでおびえる人が陥りがちな誤りの一つは、神さまから与えられた自分の使命を忘れ、「わたしを信じれば、世の終わりが来ても生き延びることができる」などという偽預言者の後についていってしまうことです。結果として、その人は、命惜しさにおびえて行動したばかりに、自分の人生を失うことになります。間違った道に導かれ、せっかくの人生を無駄遣いしてしまうのです。

 世の終わりが近いと思い込んだとき、中には、自暴自棄になって働くのを止めてしまう人もいます。どうせ残り少ない人生なんだから、欲望の赴くままに、飲み食いして楽しく暮らせばよいと考えてしまうのです。これも、先ほどの偽預言者を信じた人たちと同じで、結果として自分の人生を失うことになります。欲望に引きずられて、せっかくの人生を間違った目的に浪費してしまうのです。

 世の終わりというと、あまりピンとこないかもしれませんが、世の終わりを自分自身の人生の終わり、すなわち自分の死と考えれば、「おびえるな」というイエスの言葉はわたしたちにもそのまま当てはまるでしょう。たとえば、迫ってきた死を恐れるあまり、不老長寿の薬を探すことに熱中する人がいれば、その人は残りの人生を無駄にすることになるでしょう。あるいは、死を恐れるあまり、もう何をしても無駄だから面白おかしく遊び暮らそうと考えるなら、その人もせっかくの人生を無駄にすることになるでしょう。何より大切なのは、おびえないこと。おびえて、神さまから自分に与えられた使命を見失わないことなのです。

 マルティン・ルターの言葉として伝えられている「たとえ明日、世界の終わりが来るとしても、わたしは今日、リンゴの種を蒔く」という言葉があります。この言葉がいいたいのも、まさにこのことだと思います。たとえ世界が明日終わるとしても、明日自分が死ぬとしても、神さまから自分に与えられた今日の使命を忠実に果たす。それこそが自分の幸せだ、ということです。

 神さまから与えられた使命とは、大きく言えば「互いに愛しあう」ということだといってよいでしょう。それは、ある人にとっては次の世代のためにリンゴの種を蒔き続けることかもしれないし、あるいは病気の友人に励ましの手紙を書くこと、ご近所の道を掃除することかもしれません。たとえ死が間近にせまったとしても、最後の瞬間まで愛のために人生を捧げるなら、神さまはその人を永遠の愛の世界に迎え入れてくださるに違いありません。終わりのときがくるまで、おびえずに、日々、自分のするべきことをして生きられるよう祈りましょう。

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