フォト・エッセイ(57) 東福寺・嵐山の紅葉②


 待ち合わせの時間よりも少し早く嵐山についたので、とりあえず駅の近くにあるお寺を見ておくことにした。目指したのは天竜寺だ。駅にも、待ち合わせ場所の渡月橋にも近いから、時間までちょっとのぞいておこうというくらいのつもりで行ったのだが、行ってびっくりした。すでに駐車場や庭先から至る所にモミジが植えられていて、それも真っ赤に色づいている。これだけでも十分すごいのに、庭園に入ったらいったいどうなるのだろうと思わざるをえなかった。
 庭園に入ると、数100本はあるかと思われるモミジの木がほとんどすべて赤や黄色に色づいていた。まるで色の洪水だった。東福寺にもまいったが、ここであらためて京都の底力を見せつけられた気がする。古の京都の人たちは、いったいどんな気持ちでこれほどたくさんのモミジを植えていったのだろうか。
 もしかしたら、寺に住む僧侶や寺に集った善男善女たちはこの地上に極楽浄土を再現したかったのではなかろうか、とふと思った。紅葉の鮮やかな彩りのかなたに彼らは極楽の栄華を見、太陽を浴びて輝く一枚一枚の葉のかなたに極楽の光を見出していたのかもしれない。モミジを一本一本丁寧に植え、育てながら、彼らはいつかたどり着く極楽に思いをはせていたのかもしれない。
 わたし自身には、庭園に植えられた一本一本の木が「神の国」の栄華を映し出し、一枚一枚の葉が「神の国」の光を反射して輝いているように見えた。庭園をさまよい歩きながら、またしても時間を忘れてしまった。ふと気がつくと待ち合わせの時間が間近に迫っていたので、急いで渡月橋へと向かった。







※写真の解説…天竜寺のモミジ。