フォト・エッセイ(122)水郷めぐり②


 舟は初め、琵琶湖に流れ込む大きな水路を進んでいった。曇り空のあいだから時折ぎらぎらした太陽の日差しが差し込む蒸し暑い日だったが、川面を渡る風は涼しかった。大きな堰を越えながら船頭さんが「ここからが水郷です」と言った。
 目の前に青々と生い茂ったヨシの群落が現れ、舟はその中へと進んでいった。網目のようにヨシ原の中を通る水路の一つに入ったのだ。ヨシ原の中は、まるで別天地だった。無数のオオヨシキリたちの鳴き声が、辺り一面にうるさいくらいに響き渡っている。水面では、子育て中のカイツブリが餌を探してあちこちで忙しく浮き沈みしている。見たこともないような種類のトンボが、ときどき舟の傍らを横切っていった。
 ところどころで、水際に着色されたペットボトルが浮いているのを見かけた。船頭さんの話では、その下にコイやフナ、ウナギなどを獲るための仕掛けが沈められているそうだ。最近はブラックバスブルーギルのせいで在来種の魚が少なくなったため、漁で暮らしを立てるのは難しくなってきているという。舟から何回か魚影を見かけたが、確かにどれもブルーギルだった。
 ここは、確かに水郷だと思った。豊かな琵琶湖の水と広大なヨシハラの中に、人と自然が共に生きる世界が築き上げられている。もし漁師さんたちの舟が通らなければ、水路はあっという間にヨシに覆われてしまう。水路がなければ、水鳥たちのの子育ても難しくなるだろう。生い茂ったヨシ原自体、年に1度ヨシ屋さんたちが古い茎を焼かないとしだいに勢いを失っていくという。







※写真の解説…1枚目、ヨシ原の中を流れる水路。2枚目、ヨシの根元に作られたカイツブリの巣。3枚目、コイやフナを取るための、モンドリと呼ばれる仕掛け。4枚目、わたし足音に驚いて飛び立ったアオサギ