マニラ日記(42)クリスマス実習2〜マリコン村②共同体の力


共同体の力
 あぜ道を登りきると、丘の上に小学校があった。マリコン村はもう一つ先の丘の上にあるので、子どもたちは村からここまで毎日あぜ道を歩いて通ってくるのだろう。車が通れるような道はどこにもない。鉄筋コンクリートのしっかりした校舎だったが、その建築資材も人間が担いで登ったものだろう。
 村が近づいてくると、通りかかる村人たちが口々に英語で「マリコン村へようこそ」と話しかけてくれた。村には一軒の土産物屋さんも商店もないから、ただ純粋に村への来客を歓迎してくれているのだろう。村の中に入ってからも、あちこちで楽しい会話をすることができた。道端で手作業で脱穀ができていない米粒をより分けている女性に「大変な作業ですね」と話しかけたときには「いや、時間だけはいくらでもあるからね」との答えが返ってきた。まったくその通りだ。何も急ぐ必要はない。
 帰り道、あぜ道を歩きながらしみじみ思ったのは、あのような人々の共同体が2000年にもわたってこの棚田を支えてきたのだということだった。個人や単一の家族だけでこれほどの棚田を作り上げ、維持することはできない。どうしても共同体での作業が不可欠だ。自然災害が襲うこともあっただろうし誤解や争いが生じることもあっただろうが、人々は知恵を出し合ってそれらの危機を乗り越え、2000年にわたってこの棚田を共に支え続けてきたのだ。
 棚田には、単に高い石組みの壁や灌漑システムなどを可能にした技術力だけでなく、協力しながら生きていく村落共同体の叡智が結晶していると言っていいだろう。フィリピン人の偉大さが、この棚田の中に集約されているような気がしてならない。