やぎぃの日記(124)福島のお母さんたち5〜福島差別


福島のお母さんたち5〜福島差別
 お母さんたちがもう一つ心を痛めているのが、福島に対する差別だ。あるお母さんは、東京で定期的に行われている会合に原発事故後、初めて出席したとき次のような体験をした。まず、開催案内が来たから行ったのにもかかわらず受付で意外な顔をされた。皆、昔からの顔なじみばかりなのに、その日はどうも態度がよそよそしい。お茶入れをしようとしたとき、そのよそよそしさの理由がはっきりわかった。彼女がポットに手を触れようとすると「いいから、あなたは触らないで。今日は座っていてちょうだい」と言われたのだ。よそよそしさの理由は、放射能への恐れだった。福島から来た人の体には放射能がついていて、体から放射能がまき散らされるとでも思っているらしい。
 そのような差別は、インターネット上などでも頻繁に見られる。お母さんの近くで話を聞いていた小学6年生の女の子が、「お母さんあれも言わなきゃ」と話に入ってきて「『福島の県境に地雷を埋めて、連中が中から出てこられないようにしろ』とネットに書いてあったんだよ」とわたしたちに教えてくれた。よほどひどく傷ついたのだろう。福島から来るものは肉や野菜から始まって木材や車、橋脚などすべて放射能に汚染されていて危ない、という論調が近ごろ確かに目立つ。県外に避難した福島県民がいやがらせやいじめを受けたりする例も後を絶たないという。
 今後、福島県民に対する差別はさらに深刻化していく恐れがある。ここまでの世論の動きを見る限り、かつて広島出身者が結婚差別を受けたように、福島出身者が結婚相手としてふさわしくないと見なされる可能性がないとは言えない。福島から来た人の体には放射能がついていると考える人がいる限り、就職差別さえ起こりうる。福島県外でも、他と比べて放射能汚染が高い地域から来た人たちについて同じような差別が起こる可能性もある。福島を初めとする放射能汚染地域に生きる子どもたちの未来のため、放射能についての正しい知識と情報を早急に普及させる必要があるだろう。
 「福島から来たものはすべて危険だ」、あるいは「なぜ福島から逃げないんだ」というような言葉からは、共にこの苦しみを乗り越えていこうという気持ちが全く感じられない。「がんばろう、日本」という掛け声から始まり、被災地と全国の人々の間に結ばれてきた心の絆が、放射能によって断ち切られようとしている。被災地の人々の声にしっかり耳を傾け、その苦しみを共に担う姿勢が、イエス・キリストに倣って生きようとするわたしたちに今こそ求められていると思う。
※写真の解説…震災の当初、ボランティアや自衛隊の人たちが使っていた「がんばろう福島」のカード。