バイブル・エッセイ(989)神さまが結んだ絆

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神さまが結んだ絆

 ファリサイ派の人々が近寄って、「夫が妻を離縁することは、律法に適っているでしょうか」と尋ねた。イエスを試そうとしたのである。イエスは、「モーセはあなたたちに何と命じたか」と問い返された。彼らは、「モーセは、離縁状を書いて離縁することを許しました」と言った。イエスは言われた。「あなたたちの心が頑固なので、このような掟をモーセは書いたのだ。しかし、天地創造の初めから、神は人を男と女とにお造りになった。それゆえ、人は父母を離れてその妻と結ばれ、二人は一体となる。だから二人はもはや別々ではなく、一体である。従って、神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない。」家に戻ってから、弟子たちがまたこのことについて尋ねた。イエスは言われた。「妻を離縁して他の女を妻にする者は、妻に対して姦通の罪を犯すことになる。夫を離縁して他の男を夫にする者も、姦通の罪を犯すことになる。」(マルコ10:2-12)

 「夫が妻を離縁することは律法に適っているか」と問うファリサイ派の人々に、イエスは「神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない」と答えました。もし二人の絆が神によって結ばれたものなら、その絆を断つことは神のみ旨に反するというのです。離婚についての律法の解釈を問うファリサイ派の人々に対して、イエスはそもそも、なぜ人は結婚するのかという観点から答えたと言ってよいでしょう。

 人間は、なぜ結婚するのでしょうか。旧約聖書では、神は「人(アダム)から抜き取ったあばら骨で女を造り上げられた」。だから、もともと一体だった男女は、結婚してまた一体に戻るのだと説明されました。この説明は、現代では受け入れにくい部分もあるかと思いますが、人間はすべて神という一つの源から生まれ、そのうちに同じ神の愛を宿している。だから、互いに引かれ合うのだと考えれば、現代でも十分に受け入れられるでしょう。もともと一つだったものは、互いに引かれ合うということです。物質と物質とは、万有引力の法則によって引かれ合うとされていますが、人間同士の場合は、万有引力だけでなく、それぞれの内に宿った愛の力によっても互いに引かれ合っているのです。

 人間が結婚するもう一つの理由は、もともと一つだったものを「神が結び合わせる」からです。わたしたちは、結婚相手を自分で選んだと思っているかもしれませんが、実は、結婚する二人は、神さまによって導かれて出会った。神さまが、自分にちょうどよい相手を選んで与えてくださったということなのです。この二人が結ばれることは、神の計画を実現するために不可欠なことだ。この二人が結ばれることによって、確かに「神の国」がこの地上に始まる。そう思われたときに、神さまは二人を結婚の絆で結ばれます。ですから、もしその絆が神によって結ばれたものであるなら、離婚することは神のみ旨、神の計画に反することになってしまうのです。

 このように考えてゆくと、「夫が勝手に妻を離縁してはいけない」というイエスの立場は、結婚だけでなく、すべての人間関係に当てはまるように思います。結婚する相手だけでなく、この地上に生きるすべての人は、唯一の神のもとから生まれてきました。だから、わたしたちは互いに引かれ合うのです。互いに愛し合い、一つに結ばれることによって本来の姿に戻ることができると言ってもよいでしょう。また、わたしたちが出会うすべての人は、自分で勝手に出会ったわけではなく、神さまが出合わせてくださった人たちです。神さまがわたしたちと相手との間に愛情や友情の絆を結んでくださったのなら、その絆を勝手に断つことは、神さまのみ旨に反することなのです。

 もしわたしたちの間に愛があり、互いが愛によって結ばれているなら、その絆は間違いなく神さまによって結ばれたものです。神さまが結んでくださった絆を大切に守っていくことができるよう、心を合わせてお祈りしましょう。

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