バイブル・エッセイ(1101)天の国の鍵

天の国の鍵

  イエスは、フィリポ・カイサリア地方に行ったとき、弟子たちに、「人々は、人の子のことを何者だと言っているか」とお尋ねになった。弟子たちは言った。「『洗礼者ヨハネだ』と言う人も、『エリヤだ』と言う人もいます。ほかに、『エレミヤだ』とか、『預言者の一人だ』と言う人もいます。」イエスが言われた。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」シモン・ペトロが、「あなたはメシア、生ける神の子です」と答えた。すると、イエスはお答えになった。「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」それから、イエスは、御自分がメシアであることをだれにも話さないように、と弟子たちに命じられた。(マタイ16:13-20)

 イエスはペトロに「わたしはあなたに天の国の鍵を授ける」といいました。「天の国の鍵」とはいったい何でしょう。ペトロの像がよく手に持っている、大きなドアの鍵でしょうか。そうではないと思います。「あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる」という言葉から類推すれば、ペトロに与えられたのは、解けてしまった罪人と神さまとの絆を結び直すための力、罪人に天国の門を開くゆるしの力だと考えるべきでしょう。それこそが、ペトロに与えられた「天の国の鍵」なのです。
 罪人と神さまとの絆を結び直す使命は、神のゆるしを告げる使命は、ペトロだけでなく、教会に集うわたしたちすべてに与えられた使命だと考えてよいでしょう。わたしたちがゆるしを告げなければ、その人は、いつまでも「自分なんか嫌われ者だ。誰からも愛されない」と思って苦しみ続けるかもしれません。「神さまは、そんなあなたを、弱さや欠点まで含めて愛してくださいます。あなたが幸せになることを、心から望んでおられるのです。わたしも、あなたの幸せを祈ります」と告げることによって、その人と神さまとの関係を結び直していくこと。罪の闇の中で苦しんでいる人に、ゆるしの光をもたらすことこそ、わたしたちすべてに与えられた使命なのです。
 わたしたちは、まず自分自身にゆるしを告げる必要があるでしょう。わたしたちはつい、自分に高い要求をつきつけ、その通りに生きられない自分を責めてしまいがちだからです。「こんなこともできないようでは駄目だ。わたしには愛される価値がない」と思い込んでいる自分がもしいるなら、その自分に向かって、「そんなことはない。神さまは、失敗を繰り返しながらも、精いっぱいに生きているわたしたちを、あるがままに受け入れてくださる。神さまがゆるしてくださっているのに、自分が自分をゆるせないなんておかしい」という必要があります。神さまは、あるがままのわたしたちを受け入れてくださる方。「失敗なんて気にしなくていい。あなたがどれだけ頑張っているか、わたしはよく知っているよ」といってくださる方なのです。
 自分をゆるせたなら、今度は、周りにいる人たちにも、神のゆるしを告げましょう。わたしたちの身近にも、「自分なんか駄目な人間だ。誰からも愛される価値がない」と思い込んで苦しんでいる人がたくさんいるはずだからです。なんとかよく生きたいと願いながらも失敗を繰り返し、「自分なんか駄目な人間だ」と思い込んでしまった人に、「失敗なんか気にしなくてもいい。神さまはあなたがどれだけ頑張っているかよく知っている。失敗を繰り返しながらもなんとかよく生きようとしているあなたを見て、とても喜んでおられる」と告げること、それこそがわたしたちの使命なのです。
 天の国の門を開く使命は、わたしたちにも与えられています。自分自身をゆるし、自分の周りにいる人たちをゆるすことによって、天国の門を開くことができるよう。解けてしまった神さまとの絆を結び直すことができるよう、心を合わせて祈りましょう。

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