バイブル・エッセイ(1005)地上に輝く星

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地上に輝く星

 イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」これを聞いて、ヘロデ王は不安を抱いた。エルサレムの人々も皆、同様であった。王は民の祭司長たちや律法学者たちを皆集めて、メシアはどこに生まれることになっているのかと問いただした。彼らは言った。「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています。『ユダの地、ベツレヘムよ、お前はユダの指導者たちの中で 決していちばん小さいものではない。お前から指導者が現れ、わたしの民 イスラエルの牧者となるからである。』」そこで、ヘロデは占星術の学者たちをひそかに呼び寄せ、星の現れた時期を確かめた。そして、「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。わたしも行って拝もう」と言ってベツレヘムへ送り出した。彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。学者たちはその星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。ところが、「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行った。(マタイ2:1-12)

 占星術の学者たちは、幼子のいる場所の上に輝く「その星を見て喜びにあふれた」とマタイ福音書は記しています。異邦人である学者たちの心さえも喜びで満たす光、それはまさにキリストの光でした。その光を見たとき、学者たちは、行く手にどんな困難が待ち受けていたとしても、なんとかしてその光に近づきたいと思ったのです。

 人々の心を魅了し、あらゆる困難を乗り越えて惹きつけるキリストの光。それは、あらゆる人を「神の子」として愛し、受け入れるぬくもりの光。すべての人に生きる力を注ぐ希望の光だと言ってよいでしょう。キリストと出会った貧しい人々、差別され、社会の片隅に追いやられて苦しんでいた人々は、イエスの中にその光を見つけ出しました。イエスと出会い、その慈しみ深い瞳で見つめられたとき、イエスの手のぬくもりに触れ、体から痛みが消えてゆくのを感じたとき、イエスの中にその光を見つけ出したのです。そのとき、「自分なんか生きていても仕方がない」とさえ思いつめていた人の心に、「もう一度頑張ってみよう。この人のあとについてゆこう」という希望が生まれました。キリストの光と出会って生きる力を取り戻し、自分たちを導くように進むその光に向かって歩き始めた人たちの群れ。それが初代の教会だったと言ってよいでしょう。

 キリスト教の宣教というのは、まさにこのことに尽きると思います。教会をきらびやかに飾りたて、豪華な装飾品を並べても、地上の権威と結びつき、この世の栄光で人々を引き寄せようとしても、それだけでは決して、人々の心をキリストに引き寄せることはできないのです。街角に立って、「キリスト教はすごい宗教なんです。世界中の何億人が信じています」などと叫んでも、それだけで人々を教会に集めることはできないのです。わたしたちにできるのは、ただ苦しんでいる人たちのところに出かけていき、その人たちの苦しみに寄り添うことだけ。わたしたちの心に宿った愛、わたしたちのうちにおられるキリストよって、人々の心に希望をもたらすことだけなのです。

 そのような宣教は、決して効率のよいものではありません。一年かけても、教会に来てくれる人はほんの数人。あるいは、誰も来てくれないことだってありうるでしょう。しかし、わたしたちに与えられた方法は、それ以外にないのです。偽物の光、地上の豊かさや名誉などに惹かれて集まってくる人がいたとしても、そのような人たちはすぐにどこかにいなくなってしまうでしょう。「この教えは、わたしを絶望の闇から救い出してくれた。死すら考えていたわたしに、もう一度生きる力を与えてくれた」、そのような体験を持った人だけが、何年も、何十年も、雨の日も雪の日も日曜日のミサに出席し、自分の生涯をかけて教会を支える信徒になってゆくのです。

 もしいま、教会に新しくやって来る人が少なくなっているなら、わたしたちは自分自身を見つめ直す必要があります。わたしたちは、果たしてキリストの光を輝かせているでしょうか。苦しんでいる人たちのもとに出かけていき、その人たちの苦しみに寄り添っているでしょうか。イザヤは、「起きよ、光を放て」とわたしたちに語りかけています。キリストの光を輝かし、人々の心を照らす地上の星になること。それこそ、わたしたちの使命なのです。その使命を果たすための恵みと力を、心を合わせて神に願いましょう。

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