四人目の博士~愛の贈り物
イエスは、ヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになった。そのとき、占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て、言った。「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みに来たのです。」これを聞いて、ヘロデ王は不安を抱いた。エルサレムの人々も皆、同様であった。王は民の祭司長たちや律法学者たちを皆集めて、メシアはどこに生まれることになっているのかと問いただした。彼らは言った。「ユダヤのベツレヘムです。預言者がこう書いています。『ユダの地、ベツレヘムよ、お前はユダの指導者たちの中で決していちばん小さいものではない。お前から指導者が現れ、わたしの民イスラエルの牧者となるからである。』」そこで、ヘロデは占星術の学者たちをひそかに呼び寄せ、星の現れた時期を確かめた。そして、「行って、その子のことを詳しく調べ、見つかったら知らせてくれ。わたしも行って拝もう」と言ってベツレヘムへ送り出した。彼らが王の言葉を聞いて出かけると、東方で見た星が先立って進み、ついに幼子のいる場所の上に止まった。学者たちはその星を見て喜びにあふれた。家に入ってみると、幼子は母マリアと共におられた。彼らはひれ伏して幼子を拝み、宝の箱を開けて、黄金、乳香、没薬を贈り物として献げた。ところが、「ヘロデのところへ帰るな」と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行った。(マタイ2:1-12)
イエスの誕生にあたって、東方から3人の博士たちが贈り物を持って来る場面が読まれました。この三人の博士については、カスパール、メルキオール、バルタザールという名前も伝承されています。でも、実はもう一人の博士がいたという話をご存知でしょうか。その博士の名前はアルタバンと言います。
アルタバンは三人の博士の親友。博士たちが星を追って旅に出ると聞き、アルタバンも一緒に行きたいと願います。「いいけど、何か贈り物を準備してね」と博士たちに言われたアルタバンは、家に帰って何かよいものはないかと探しますが、家には何もありません。そこでアルタバンは、家を売って、袋一杯の真珠を準備しました。
真珠の袋を持って三人の博士との待ち合わせ場所に急ぐアルタバン。ですが、しばらく歩くと道端で倒れている男に出会います。哀れに思ったアルタバンは、立ち止まり声をかけました。「強盗に襲われて大けがをし、お金も全部取られてしまいました。どうか助けてください」と男はかすれる声で答えました。アルタバンは男を近くの宿屋に連れて行って介抱しました。でも、先を急がなければならないアルタバン。宿屋の主人に「これを売って、この男の人のために使ってください」と真珠を一粒渡し、三人の博士のもとに急ぎます。
しばらく行くと、今度は道端でうずくまっているおばあさんがいました。哀れに思ったアルタバンは、立ち止まって声をかけます。「お腹が空いて、もう動けません。1週間も何も食べていないのです」とおばあさんは消えそうな声で答えました。アルタバンはおばあさんを背負って家まで連れて行き、真珠を一粒売って、おばあさんのために食事を準備しました。おばあさんが元気になったのを見届けて、アルタバンは再び三人の博士との待ち合わせ場所に向かいます。
ですが残念、アルタバンが着いたときには、もう博士たちは出発した後でした。アルタバンは、大急ぎで後を追いかけ、ベトレヘムに辿りつきます。ですが、博士たちは、別の道を通って帰ってしまった後でした。肝心の救い主、イエスも両親に連れられてエジプトに旅立ったとのこと。アルタバンは、イエスに会うためエジプトに旅立ちます。
イエスを探して旅を続けるアルタバン。もうちょっとでイエスに会えそうな場面は何度もあったのですが、その度ごとに道で困っている人に会い、助けているうちにせっかくのチャンスを逃してしまうのでした。そうこうしているうちに、30年の月日が流れました。
おじいさんになったアルタバン。袋にたくさんあった真珠も、人助けに使ってしまって、もう一粒しか残っていません。そんなアルタバンの元に、とんでもない知らせが届きます。イエスが捕まり、処刑されるというのです。何とか一目だけでもイエスに会いたいと願うアルタバンは、大急ぎでエルサレムに向かって駆け出しました。
エルサレムに着いたアルタバン。もうちょっとでイエスに会えると勇んで道を歩いていると、大男に手を引っ張られ、「助けて」と泣き叫んでいる女の子に出会います。アルタバンが大男に事情を聴くと、親の借金の代わりに売られていく途中とのこと。アルタバンは大いに迷いましたが、袋に残った最後の真珠を取り出し、大男に渡して女の子を助けてあげました。ですが、そこまでしたところで、年老いたアルタバンは力尽きて倒れてしまったのです。
宿屋に運ばれ、休んでいるアルタバンの元に、イエスが処刑されたとの知らせが届きます。アルタバンはがっかりしました。「結局、イエスには一度も会えなかった。家を売って買った真珠も、一粒も渡せなかった。ぼくは何をしていたんだろう。」そう嘆くアルタバンに不思議なことが起こります。寝ているアルタバンの枕元に、イエスが現れたのです。イエスはアルタバンに言いました。「お前は、わたしに一度も会わなかったなんて言ってるが、何回も会ったじゃないか。あのとき道端で倒れていた傷だらけの男、お腹を空かせたおばあさん、泣き叫んでいた女の子、あれは全部わたしだったんだよ。ご覧、お前の真珠は、ぜんぶここにある。」イエスはそう言って、袋一杯の真珠をアルタバンの前にかざしました。アルタバンはすっかり安心し、穏やかな顔で息を引き取ったのでした。
わたしたちはもう、イエスに直接会うことはできないし、三人の博士のように贈り物を直接届けることはできません。ですが、アルタバンのやり方なら、きっと真似することができるでしょう。わたしたちが誰かのために差し出す優しい心は、必ずイエスのもとに届くのです。黄金、乳香、没薬にも負けないほど素晴らしい愛の贈り物を、イエスの元に届けられるように祈りましょう。