フォト・エッセイ(34) 草津白根山

《お知らせ》9月8日から17日まで、叙階準備の黙想のため長崎に行きます。その間、ブログの更新やコメントへの応答はできません。

 帰省中に、母と草津温泉に行ってきた。草津まで埼玉の実家から特急で2時間位で行けるので、帰省すると母と一緒によく出かける。これまでにもう何回も行っているが、何回行ってもまた行きたくなる温泉だ。中心に湯畑と呼ばれる「湯の花」の採取場があり、そのまわりを温泉宿や公共の温泉施設などが取り囲んでいる。街全体がまるで温泉のテーマパークのようになっているので、わたしのような温泉好きにはたまらない場所だ。冬場は雪に包まれて静かな休息の時を過ごすことができるし、夏場は白根山に登って山歩きを楽しむこともできる。なにより温泉の泉質がいいし、お湯の湧出量も日本で有数だと聞いている。
 司祭になってしまうとなかなか休みが取れないし、親孝行の機会も減るだろうから、今回は2泊してゆったりとした時間を過ごした。温泉に入ったり、白根山に登ったりして、母にとってもわたしにとってもいい休みになったと思う。ようやく夏の疲れもとれたようだ。
 温泉に入ったり山を歩いたりしながら、司祭になったら自分は一体どうなるのだろうか、自分はなんのために司祭になるのだろうかなどと考えていた。一つ目の問いについて言えば、自分の将来のことは神様に委ねるより他ないだろう。わたし自身は、自分にとってどんな将来が一番幸せなのかさえよく分からないからだ。わたしのことをわたし自身よりもはるかによくご存知の神様は、きっと思いもかけない仕方でわたしを救ってくださるだろう。将来が自分の思ったようにならなくても、それはそれで神様のご計画だから何も心配する必要がない。ただ神様の導きに身を委ねていればいいと思う。
 では、自分は一体なんのために司祭になるのだろうか。そもそも、なぜわたしは司祭になりたいと思ったのか。このことはよく確認しておく必要があるだろう。わたしの司祭召命の原点は、一体なんだったのだろうか。
 マザー・テレサとの出会い、カルカッタでのボランティア体験、世界中を旅行した体験、霊操の体験など、さまざまな体験を経る中でわたしの中に次第に司祭職への望みが生まれてきたことは確かだ。わたしの召命はマザー・テレサとの出会いで決まったように誤解している人がいるかもしれないが、わたしとしてはむしろ最後に体験した霊操が決定的だったと思っている。マザーの言葉は大きなきっかけだったが、修道生活と司祭職に向かって歩き出す力と勇気は、間違いなく霊操の中でのイエスとの出会いから与えられたものだ。
 あれは決定的な出会いの体験だったと思う。霊操の中でイエスの存在を実感し、イエスに愛されているということを心から信じられたことで、それまでばらばらだったいろいろな体験が1つの方向に向かって結び合わされたような気がする。それまでにわたしは、世界中でさまざまな理由から苦しんでいる人たちとの出会いを体験していたが、彼らの苦しみに対してまったくの傍観者だった。自分自身もそれなりの苦しみを抱えているのだから、人のことまでかまっていられないという気持ちもあっただろう。まず、自分自身が救われたいと思っていたのだ。
 だが、霊操の中で自分がイエスからどれほど深く愛されているかを実感したとき、もはや苦しんでいる彼らを放っておくことはできないという思いに駆られた。わたしのような人間さえ愛してくださるイエスは、間違いなくすべての苦しんでいる人たちも同じように愛してくださっている。このことを彼らに伝えなければならない、そう思ったのだ。そのためには司祭になるのが一番いい。なぜなら司祭は、秘跡の執行を通して、また生き様を通して、イエスの愛を最もはっきりと証することが出来るからだ。だからこそわたしは、イエズス会に入り、司祭職を目指す道を選んだのだと思う。
 今から考えても、わたしが司祭になることにそれ以上の理由はないような気がする。世の中には、厳しい生存競争の中で自分の存在に価値がないと思い込まされている人、誰からも愛されていない、必要とされていないと思い込んでしまっている人、病いや老いの中で自分の存在に意味を見つけられない人など、神様の愛を必要としている人がたくさんいる。神様は間違いなくそういった人たちの一人ひとりを限りなく大切に思い、愛しておられるのだが、残念ながら人間が作り上げた世界の歪みがその事実を覆い隠してしまっているのだ。神様がわたしたち人間の一人ひとりを限りなく愛しておられるという明らかな事実を、神様の愛に気づかないままに苦しんでいる人たちになんとかして伝えたい。そのためにこそ、わたしは司祭職を選んだのだし、今から2週間後に司祭叙階の恵みを受けるのだ。このことを、決して忘れないようにしたいと思う。




※写真の解説…1枚目、草津白根山の噴火口。2枚目、白根山からの風景。3枚目、温泉街の中心にある湯畑。