フォト・エッセイ(64) 近江散策①


 紅葉もほとんど終わってしまったし、今週はどうしようかなあと考えていた時に「そうだ、琵琶湖に行こう」と思った。10月に比叡山に登った時に、山の上から琵琶湖を見渡した。そのときに、これはまた別の機会に琵琶湖は琵琶湖としてじっくりと見に来なければと思ったのだが、その記憶がふいによみがえってきたのかもしれない。
 今回は、とりあえず彦根近江八幡に焦点を絞ることにした。彦根を選んだことに別に深い理由はない。近頃「彦にゃん」という言葉をよく聞くし、城跡から琵琶湖を見渡したらきれいだろうなと思ったというくらいのことだ。近江八幡は、彦根のすぐ近くにある商人の街で、まだ古い街並みが残っている。街の外れにある八幡山の頂上から琵琶湖がよく見えるとガイドブックに書いてあったので、そこにも寄ることにした。
 彦根城に行ってびっくりしたのは、まだ紅葉がかなり残っていたことだ。さすがに見頃というわけにはいかなかったが、それでもかなりのものだった。城内のあちこちにモミジの大木があり、それらがみな真っ赤に色づいていた。お城自体は、城内にかかっているテープの案内でさえ「外見はそれほど美しくありませんが丈夫な構造です」と繰り返し言っているくらいで、あまり美しくない。だが、紅葉の赤、お城の白壁、そして雲ひとつない青空という構図はとても美しかった。シーズンオフの平日だったせいか、城内にわたしだけしかいないのではないかと思われるほど人は少なかった。美しいモミジを独占できたのはよかったのだが、同時に彦根市観光局のことを心配せざるをえなかった。「彦にゃん」はもう少し頑張る必要があるかもしれない。
 お城から眺めた琵琶湖は、やはり大きかった。残念ながら靄がかかっていて向こう岸まではっきりとは見ることはできなかったのだが、それにしてもすごい。月並みな感想だが、まるで海のようだった。「これは滋賀湾です」と説明されれば、なんの疑いもなく信じてしまったかもしれない。日本にはまだまだわたしの知らないすごい景色がたくさんあるようだ。







※写真の解説…彦根城の紅葉。