フォト・エッセイ(78) 摩耶古道


 昨日は、青谷の修道院でミサを立ててから、山を越えて「すずらんの湯」まで行ってきた。「すずらんの湯」というのは、有馬街道沿いにある温泉だ。先日の雪で有馬方面に向かう紅葉谷道が凍結しているということだったので、今回は少し方向をずらして森林植物園の近くにあるこの温泉を目的地に選んだ。
 まず、青谷道から摩耶山に登った。登っている途中で霧が出てきた。だが幸い太陽もときどき顔を出していたので、道に迷うほど暗くなりはしなかった。むしろ、太陽の光が霧を照らして作り出す幻想的な雰囲気の中で山道を歩くことができた。歩きなれた道だったが、昨日はなんだかタイムスリップして江戸時代の山道を歩いている様な気がした。わたしの他に誰も歩いている人がいなかったことも一つの理由だろう。青谷道は、江戸期には摩耶山の山頂近くにあった旧摩耶山天上寺にお参りする人々が行き交う巡礼路としてにぎわった道だ。今でも、何ヵ所かに茶店の跡が残っている。
 歩きながら、さまざまな思いが胸中をよぎった。近頃、わたしは様々なことで心をかき乱されることが多い。ひとつ一つはよく考えればどうでもいいようなことばかりなのだが、不安や恐れなどの人間的な思いについ引きずられてしまう。頭では分かっていても、まだ心の奥深い部分に神様を信頼しきれず、自分により頼む心が残っているのだ。本当に未熟者だと思う。神様を信頼して、自分に与えられた今に満足できれば何も心配することはない。そのことを自分に言い聞かせつつ、山道を歩んでいった。
 摩耶山の山頂は、うっすらと雪に覆われていた。掬星台から神戸の街を眺めたあと、アゴニー坂を下って穂高湖まで出た。穂高湖の凍結した湖面にも雪がうっすらと積もっていた。穂高湖から徳川道に入った。予想通り徳川道にはあまり雪が積もっていなかったので、いつもと同じようにどんどん歩き、1時間あまりで森林植物園に到着した。森林植物園を出て「すずらんの湯」に向かおうとしたとき、急に雨が降ってきた。足早に歩き、なんとかびしょぬれになる前に温泉にたどりつくことができた。
 「すずらんの湯」でのんびりお湯につかりながら、改めて「何も心配することはない。神様がすべてをよく計らってくださる」と心に言い聞かせた。温かいお湯が体の疲れを解きほぐしていくにつれて、心の不安もしだいに解け、心が軽くなっていくのを感じた。







※写真の解説…1枚目〜3枚目、青谷道にて。4枚目、雪が積もった穂高湖の遊歩道。