フォト・エッセイ(96) 里山エコツアー② 針江の人々


 今回のツアーをガイドしてくれたのは、福田さんという70歳くらいの女性だった。とても明るくて元気な方で、地区の人たちはみな彼女の友だちのように見えた。何十年か前に針江に嫁いできてこの地区でずっと生活している人なのだから、それはある意味で当然のことかもしれない。
 行く先々で彼女が「こちら神戸からみえたお客さん」と紹介してくれると、もうそれだけで打ち解けた雰囲気ができる。突然訪れたにもかかわらず、どの家でも友だちが来たかのように暖かく迎えてくれる。ほんとうにありがたいことだった。もしわたしが1人で行ったとしたら、ほとんど誰とも会話せずに街並みだけを見て帰ってくることになっただろう。それが、彼女のお陰でどの家でも「かばた」まで入れてもらい、生活の様子を見せてもらうことができた。出会うどの人も、まるで久しぶりに里帰りした親戚に会ったような気さくな態度でわたしたちに接してくれた。これこそ、エコツアーの醍醐味だろう。
 ある家では、ちょうど鮒ずしを作っている最中だった。福田さんでさえ最近は滅多に見ることがない場面だと言っていたから、とてもラッキーだったのだろう。「命めぐる水辺」の中に作っている場面があったが、まさか実際に見られるとは思っていなかったのでとてもうれしかった。作っていた御婦人が、内臓を取り出すときのこつなどを一生懸命説明してくれた。お嫁に来たばかりのときに初めてやらされたときはぎょっとしたが、やらなければ仕方がなかったのでなんとか覚えた。苦玉という部分を破裂させないように取り出すのがこつだ。初めて会ったばかりのわたしたちに、彼女はうれしそうに説明してくれた。帰りにたまたま駅で鮒ずしを売っていたので買って帰り、家で食べたがとてもおいしかった。お米はブルーチーズのようで、鮒は生ハムのような食感だった。ワインにとても合うだろう。
 ある家では、福田さんと久しぶりに会ったらしいお嬢さんが「ほら、中山の次女ですよぉ」と福田さんに話しかけていた。「あれれ、しばらく見ない間にこんなに大きくなって」と福田さんが答えていたところを見ると、彼女が子どもの頃に会って以来久しぶりの再会だったらしい。それを見ていたわたしたちも、なんだか久しぶりにそのお嬢さんにあったようなうれしい気持になった。そんな調子で、わずか2時間足らずのツアーのあいだに何十人もの人たちと出会うことができた。
 ただ景色や家の中を見るだけでなく、地区に住むたくさんの人たちとの出会いを通して自然との共生を学ぶことができるツアー、針江地区のエコツアーはそんなツアーだ。







※写真の解説…1枚目、水路になびく梅花藻。2、3枚目、「かばた」で鮒ずしを作っているところ。4枚目、「かばた」の水で作った豆腐。