フォト・エッセイ(111) 仰木の棚田①


 新型インフルエンザの騒ぎの中で書くのが遅れてしまったが、2週間前の木曜日、滋賀県大津市にある仰木という集落に行ってきた。琵琶湖に面した広大な棚田で知られている集落だ。
 仰木は、何年か前に放映されたNHKスペシャル里山〜人と自然がともに生きる』の舞台でもある。3月に行った高島市の針江はNHKスペシャル里山Ⅱ〜命めぐる水辺』だったが、そのシリーズの第1作がこの町で撮影されたのだ。どちらも、日本にまだこんな生活が残っているのかと深い感銘を受ける番組だった。仰木は棚田を媒介にして人と自然が共生する町なので、棚田に水が入ったらぜひ行ってみようと思っていた。
 湖西線堅田駅からバスで20分くらい行ったところにある、平尾というバス停で降りて歩き始めた。最初の目的地は、棚田桜と呼ばれる桜の木と、その近くにあるという馬蹄形の棚田だ。針江と違ってエコツアーは行われていないので、地図を頼りに自分で探すしかない。
 いくつかの山が琵琶湖近くにまで裾を伸ばし、仰木のあたりでたくさんの谷間を作り出している。そのため、うねうねと曲がりくねった道が多く、地図を見ながら慎重に歩いていてもすぐ迷子になってしまった。写真家の今森光彦氏も、このあたりを車で走っているときに迷子になってたまたま仰木の棚田と出会ったと本に書いていたが、確かに分かりにくい道だ。
 しばらく歩いて集落を抜けると、棚田が現れ始めた。歩いても歩いても、曲がりくねった道の両側にどこまでも棚田が続いている。その様は圧巻としか言いようがない。これだけの棚田を維持し、そこで稲作をするのに一体どれだけの労力がかかっていることか。効率を最優先にして発展し続ける現代の日本に、これだけの規模の棚田が残っているというのは奇跡に近いかもしれない。トラクターを使って田植えをしている場面にも何回か出くわした。手で、昔ながらの田植えをしているお百姓さんたちの姿も見かけた。棚田の隅の方にはトラクターが入らないからだろう。何かとても懐かしいものに出会ったような気がして、胸が熱くなった。








※写真の解説…1枚目、棚田桜から見た扇ヶ谷の棚田。2枚目、あぜ道に咲いたシロツメクサ。3枚目、田植えの風景。4枚目、田植えがすんだばかりの棚田。
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