忘れられたスラム街〜スモーキー・マウンテンからの報告2


2.この実習を選んだ理由
 その後、シスターたちに連れられて3度ほどこのスラム街を訪れた。シスターたちはこのスラム街の隅々にまで入り込んで、病者の家庭訪問や子どもたちのための要理教育を行っているのだ。あまりの治安の悪さに警察でさえ入り込めないと言われる地域にさえ、シスターたちは平気で入っていく。わたしは司祭として家の祝福や病者の塗油、死者のための祈りなどをしながら彼女たちの後についていった。
 毎回ほんの4-5時間の訪問だったが、すさまじい悪臭のする蒸し暑い仮設住宅群の中や、強い日差しが照りつけるゴミ捨て場の中を歩き回るので、いつも修道院に戻るまでに疲れ果てていた。「もうこりごり」と思いながら、スラム街から逃げ出すようにして帰ってくることさえあった。顔を洗ってタオルで顔をぬぐうと、タオルはいつも真っ黒になった。
 ところが、わたしは第三修練最後の実習先として、よりによってこのスラム街でホームステイすることを選んだ。その理由は、主に大黙想の中でのこれまでの生活の反省に基づいている。
 30日間祈りの中で神と、そして自分自身と向かい合う中で痛感したのは、これまで自分の司祭職、そしてイエズス会の修道生活へのコミットメントがあまりにも不十分だったということだ。司祭職、修道生活を通して神に全てを差し出すと言いながら、その実、自分自身のためにたくさんのものをとっておき、生ぬるい生活をしてきたような気がする。この生ぬるさを取り去るためには、考えうる限りもっとも厳しい場所に身を置いて自分を打ち砕くのが一番いい。今のわたしにとって、生理的にも心理的にも最も受け入れがたい場所、それはスモーキー・マウンテンだろう。こう考えて、わたしはスモーキー・マウンテンを最後の実習先に選んだのだった。
※写真の解説…スモーキー・マウンテン、ウリガン地区にて。