教会報記事「フィリピンの待降節」


 これまで色々な場所で待降節を過ごしてきましたが、その中でも忘れることができないのは1999年にイエズス会の修練者としてフィリピンで過ごした待降節です。
 フィリピンでは10月頃から街中にクリスマスのイルミネーションが飾られ、クリスマス・ソングが流れます。わたしが住んでいた修練院でも、11月頃からキャロリングの練習やら家の飾りつけなどクリスマスの準備が賑やかにに行われていました。みんなクリスマスが待ち遠しくて仕方がないようでした。
 そんなクリスマスの準備が頂点を迎えるのが、毎年12月16日から行われる「シンバン・ガビ」です。「シンバン・ガビ」というのは、その日からクリスマスまでの9日間、毎日朝5時頃から行われるミサのことです。毎日我慢して早起きし、朝の時間を神様に捧げることで、フィリピンの人たちはイエス・キリストを迎える準備をするのです。フィリピン全土で行われている習慣のようで、この期間、毎朝どこの教会も人で溢れます。
 わたしは、毎週日曜日に通っていたサーパン・パライというスラム街の教会に9日間通うことにしました。その教会は修練院から車で30分かかる山の中にありましたから、わたしは毎朝4時に起きなければなりませんでした。
 わたしの早起きは8日間、順調に続きました。ところが、9日目を迎える前夜、困ったことが起こりました。シンバン・ガビのミサが終わったあと教会の外で買って食べた揚げパン(ビビンカ)が当たって、お腹を壊してしまったのです。あと1日なんとかスラムのみんなと一緒にシンバン・ガビに出たい、わたしはその一心でお腹をさすり、神様に回復をお願いしました。
 祈りが通じたのでしょうか、翌朝には微熱があったものの腹痛は治まりました。わたしはぼーっとした頭で車に揺られ、なんとか9日目のミサに出ることができたのです。そのミサのことは、きっと一生忘れられないでしょう。貧しさの中でイエス・キリストにすべての希望を託した人々の祈りが、聖堂を満たしていました。若者も老人も、お父さんお母さんも子どもたちも心を一つにしてイエス・キリストの誕生を待ち望んでいました。
 毎年、待降節になるとサーパン・パライのみんなはどうしているかなと懐かしく思い出します。頼るべき財産も、技術も、学問もない彼らは、ただ神だけにより頼み、今年もひたすらイエス・キリストの誕生を待ちわびていることでしょう。それこそ、本当の待降節の過ごし方なのではないでしょうか。
※写真の解説…山岳民族の子どもたち。フィリピン、ミンダナオ島にて。