マニラ日記(32)ハッピー・ランド訪問Ⅴ〜スモーキー・マウンテン


スモーキー・マウンテン
 スモーキー・マウンテンに入って行くと、中心部を通る道で日本人らしい人を見かけた。話しかけると、日本からボランティアで来たカメラマンの方だった。近くの「バスーラの家」という施設でボランティアをしているという。映画『スカベンジャー』で有名な四宮浩監督が今春、設立した施設らしい。少し立ち寄ると、日本から来た学生さんたちが10人ほど食事の準備をしておられた。スラムの人たちに炊き出しをするのだという。 
 わたしたちはさらに奥にある最貧地帯に向かった。ゴミ拾いで生計を立てる「スカベンジャー」たちの住まいだ。1件の家に入ると、老女がわたしたちを歓迎してくれた。昼食の準備中だったらしく、食卓には簡素な食器がいくつか並べてあった。その一つに、何か黒いものが盛り上げられていた。何かと思って見ていたが、老女が近づくとその黒いものが一斉に飛び立ち、その下から白いご飯が現れた。なんと、ご飯の上に無数のハエがたかっていたのだった。老女は気にする風もなく、ハエを追い払うとその食器に蓋をした。この家族の、大切な昼食なのだろう。
 わたしたちは、さらに何軒かの家を訪問して歩いた。途中で前回と同じく葬儀に出会ったが、棺に納められていたのは生後間もない赤ん坊だった。NGOの無料奉仕以外に医療の手が届かないこの場所では、乳幼児の死亡率がとても高いようだ。わたしが聖水で棺を清めると、母親らしい若い女性が棺にすがって泣き崩れた。
 こんな状況で生活している人たちが、この国には何万人もいる。ハエの群れに取り囲まれ、すさまじい腐臭を放つゴミをかき分けても、何とか生きようとしている人たちが何万人もいるのだ。一方で、日本には豊かさの中にあって自ら命を絶つ人たちが何万人もいる。人間が生きるとは、一体どういうことなのか。わたしはどうやって生きていったらいいのか。貧しい人たちのために、わたしに何ができるのか。多くのことを考えさせられる1日だった。今はただ、この街にもイエスが住んでおられることを信じて祈るしかない。
※写真の解説…スモーキー・マウンテンの最貧地帯。