忘れられたスラム街〜スモーキー・マウンテンからの報告3


3.スラムの生活
 わたしが2週間滞在したタン・バカン地区は、大きく言って、ダンプサイトと呼ばれるゴミ捨て場地域、ウリガンと呼ばれる炭焼き地域、ゴミ運搬のための巨大な平底船にちなんでバージと呼ばれるゴミ搬出地域の3つの地域から成り立っている。全体で約600軒の家があり、5,000人あまりが暮らすと推定されている。
 共同体で発電機を持っているので、ほとんどの家では1日のうち夕方6時半から翌朝の6時半まで12時間は電気を使うことができる。しかし、水道は全く通っておらず、地区の中に数か所ある給水所まで水を買いに行かなければならない。20キロはある5ガロン・タンクを家まで担いで運ぶ人の姿が、街のあちこちで見られる。地域ごとの特徴もあるので、以下地域ごとに紹介する。
(1)ゴミ捨て場地域(ダンプサイト)
 マニラの海岸沿いを走る国道10号線を進み、かつてのスモーキー・マウンテンである緑の丘の近くから埋立地に続く大きな道を入っていくと、右手にスラム街が見えてくる。右折してスラム街の中心部へと続く舗装されていない道をさらに入っていくと、道の両側に貧しい住宅群やNGOの施設、教会などが現れる。その辺りが、ダンプサイト地域だ。
 かつてはここにゴミ捨て場があったことからダンプサイトと呼ばれているが、今はゴミ拾いで生計を立てる人々が生活を営む住宅地になっている。中には2階建ての家もあるが、ほんどは平屋で、どの家も木造の簡素な仮小屋のような造りだ。中心部には、タリパパと呼ばれるマーケットがあり、10軒ほどの小さな商店が生鮮食品や雑貨などを販売している。
 ゴミ拾いで生計を立てる人のことをこの国では禿タカやハイエナなどの動物にちなんで「スカベンジャー」と呼ぶが、この地域から働きに出る人の9割方がスカベンジャーだと言われている。彼らの収入はどれだけ高価なゴミを拾えるかにかかっている。普通はプラスチックや鉄などを集めて1日100ペソ(1ペソ≒2円)くらいの収入を得ているという。運よく高価な銅線などを見つけて1日に600ペソ稼げる日もあるらしいが、それは稀なことのようだ。
※写真の解説…夕暮れ時のタン・バカン地区。