やぎぃの日記(121)福島のお母さんたち2〜食い違う見解


福島のお母さんたち2〜食い違う見解
 4月になると、福島市内の各地で放射能の専門家たちによる講演会が行われるようになった。東京大学東北大学京都大学といった日本を代表する国立大学の教授たちやチェルノブイリに何度も足を運んだという医師たちが、一般市民のために放射能についてわかりやすく説明しくれるというのだ。空間線量1μSv/hや年間外部被ばく20mSvなどという情報が手に入っても、それが一体何を意味しているのか、どのくらい危険なのかがわからなければ意味がない。お母さんたちは、それらの講演会に熱心に足を運んでメモをとった。お隣の二本松市まで足を延ばしたというお母さんもいた。
 しかし、専門家たちの話を聴けば聞くほどお母さんたちの混乱は深まっていった。ある専門家は年間100mSvまでは安全だから心配しなくていいと言い、ある専門家は年間1mSv以上は危険だから逃げろと言う。そのどちらもが専門家中の専門家という先生たちだ。はたして、どちらを信じればいいのか。これまで環境ホルモンにしても農薬などによる食物汚染にしても、専門家の間でこれほどまでに意見が食い違うことはなかった。もはや専門家の言う「科学的見解」というものが信じられない、これまで誰も体験したことのない深刻な事態が福島に現れた。
 あるお母さんたちは安全を主張する専門家の意見を信じて子どもたちを外で遊ばせるようになり、逆にあるお母さんたちは危険性を主張する専門家の意見を信じて福島から避難していった。そんな中で、今回集まってくれたお母さんたちは、両方の意見を聞きながら慎重に状況を判断することを選んだと言っていいだろう。現実問題として、仕事や家のローンのこと、老人介護のことなど考えれば、家も仕事も捨てて避難というような決断は容易にできるものではない。経済的に余裕のある人たちや、転勤族ならばすぐに避難ということも考えられるだろうが、そうでない人たちにとって避難は一世一代の大決断だ。決断のためには、十分な判断材料を集める必要がある。
 あるお母さんは、事故の1年前に福島第一原発の見学会に参加していた。その時は、専門家からあらゆる資料を見せられ、チェルノブイリ原発との決定的な違いについてさえ説明を受けて安心して帰ってきたという。あれだけ安全に見えた原発がこんなことになるなんて、一体何を信じていいのかというのがそのお母さんの偽らざる思いのようだった。これはほとんどの日本人にも言えることかもしれない。世界一の安全性を誇った原発が爆発した今、一体わたしたちは誰の言うことを信じればいいのか。
※写真の解説…福島市カトリック野田町教会。