祈りの小箱(93)『手の中にある幸せ』


『手の中にある幸せ』
 あるとき、老人ホームで一人のご婦人からこんな話を聞きました。いつも身ぎれいにしているそのご婦人は、御主人を亡くし、5年ほど前にそのホームに入られたとのことでした。若いころからおしゃれが好きで、毎シーズンたくさんの服を買って楽しんでいたそうですが、老人ホームに入ることが決まってクローゼットの服を整理しなければならなくなりました。一つひとつに思い出の詰まった服たちを整理しながら、彼女はふとあることに気づきました。「いくら服があってもまだ足りない、もっと新しい服をと思って買い集めて来たけれど、こうして一つひとつ手にとって見ると、自分が生きていくために必要な服はもうここに十分にある」と思ったのです。そう気づいた途端、彼女の心から長年彼女を悩ませてきた服への執着が消えたそうです。
 とても考えさせられる話だと思いました。わたしたち人間は、たくさんのものを欲しがりますが、一度手に入れたもののことにはあまり関心を払わない傾向があるようです。手に入れたもののことは忘れて、次々と新しいものを求め、いつまでたっても心が満たされることがない。人間の欲望というのは、そのようなものなのかもしれません。この女性のように何らかのきっかけでこれまで手にいれたものを一つひとつ見つめ直し、改めて一つひとつの重みをかみしめるとき、わたしたちの心はようやく満たされるのです。人間の心は、たくさんの物を手に入れることによって満たされるのではなく、手に入れたものに感謝することで満たされる、そのことを彼女から改めてはっりと教わったような気がします。
 もしかすると、わたしたちが幸せになるために必要なものは、すでにわたしたちの手の中にあるのかもしれません。本当に必要なのは、さらにたくさんのものを手に入れることではなく、手の中にあるものに感謝する心なのかもしれないのです。幸せになるために必要なものは、すでにわたしたちのクローゼットの中にあるかもしれないのです。与えられていないものに心が惹かれ、気持ちが落ち着かないときには、与えられていないものではなく与えられたものに目を向け、神に感謝したいと思います。
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