バイブル・エッセイ(833)全人類の救い

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全人類の救い

 そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の住民登録である。人々は皆、登録するためにおのおの自分の町へ旅立った。ヨセフもダビデの家に属し、その血筋であったので、ガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。身ごもっていた、いいなずけのマリアと一緒に登録するためである。ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。すると、主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。天使は言った。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して言った。「いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ。」(ルカ2:1-14)

 主の御誕生、おめでとうございます。挨拶が形だけにならないように、2000年前に一人の赤ん坊が生まれたことが、なぜわたしたちにとってめでたいのか確認したいと思います。なぜ、イエスの誕生がわたしたちにとってめでたいのか。それは、イエスがわたしたちに、神様がどれほどわたしたちを愛しておられるかを、言葉と行い、その生涯によって余すところなく伝えるためにお生まれになったからです。わたしたちは誰もが、神様によって造られたかけがえのない命、世界でたった一人だけの神様の最高傑作なのですが、競争社会の厳しい現実にもまれる中で、そのことを忘れ、「自分なんか生きている価値がない。わたしの人生には意味がない」と心のどこかで思い始めています。そんなわたしたちに、「何を言ってるんだ。あなたは神様から愛されて生まれてきた大切な命。かけがえのない神様の子ども。病気だろうと、貧しかろうと、世間から見下されていようと、何があろうとあなたの人生には確実に意味がある」、そう伝えるために、イエスはこの世界にお生まれになったのです。このメッセージこそ、わたしたちが待ち望んでいた喜びの知らせ。全人類を救う福音だと言っていいでしょう。
 そのことが、今日の福音にもはっきりと現れています。イエスの誕生は、まず羊飼いたちに知らされました。当時の社会の中で最も貧しく、社会の片隅に追いやられた存在だった羊飼いたち、住む家や家族を持たず、生涯を野原で羊たちと共に過ごす羊飼いたちに、なぜ、まっ先に天使たちが現れたのでしょうか。それは、羊飼いたちこそが、福音のメッセージ、「あなたはかけがえのない神様の子ども。あなたの人生には意味がある」というメッセージを誰よりも必要としていたからです。
 ですが、このメッセージを必要としていたのは、貧しい人たちだけではありませんでした。羊飼いたちに続いて、東方から王たちもイエスを訪ねてやって来たのです。彼らもまた、救いを必要としている人たちでした。どれほど大金持ちで豪邸に住み、外車を乗り回していても、名誉や権力をつかみ、たくさんの人からちやほやされていたとしても、幸せでない人たちは世の中にたくさんいます。どんなにお金や地位、名誉があっても、誰とも深く心を通わせられない孤独の中で「わたしの人生にどんな意味があるんだ」と絶望している人はたくさんいるのです。王たちがわざわざ貧しい馬小屋までやって来たのには、確かに理由がありました。どんなに金持ちであったとしても、「あなたは神様から愛されたかけがえのない命。大切な神様の子ども。あなたの人生には、確かに意味がある」という言葉を聞かずには、決して幸せになることができないのです。
 この福音は、わたしたちにとって唯一の救いだと言っていいでしょう。今日、このメッセージを改めて深く心に刻みたいと思います。わたしたちは神様から愛されて生まれてきた大切な命。かけがえのない神様の子ども。病気だろうと、貧しかろうと、世間から見下されていようと、何があろうと、これほどまでに神様から愛されたわたしたちの人生には、確かに意味があるのです。